【銀魂】闇に酔う悪魔

算段 ページ23

ー土方サイドー







(ーーー何言ってんだ、俺ァ)




頭を抱えたい気分だった。
なぜいま、俺は理由づけをしたのだろうか。

咄嗟に思いついたチープな嘘。
こんな計画性のないくだらねェことをまさか自分が
やってのけるなんざ。誰が想像しただろうか。








「・・・無茶だけは、やめとくれよ」


「無茶？」

「黙って私の常連やめても、別に恨んだりは
しないからさ」




この土地はそれだけ危険だということだろうか。
Aは、なおも切なげに笑ったままだ。






「俺はいつから常連になった」

「何言ってんだい。いつも私のこと指名してくれる
だろう？来店頻度はそうでもないけどね」


「媚びてェのか嫌味をいいてェのかどっちだ」

「強いていうなら、両方だね」





いたずらめいた表情が、顔をのぞかせた。
切なさをかき分けるように、
時折滲み出すAの素顔。

それは、ひどく魅力的だが、ーーその反面、常に
表に出てこられないそれが、悲しくもあった。









「あぁそうだお兄さん。ーーあんた、酒は好き？」


「・・まあ、嗜む程度にはな」

「そりゃァ意外だね。強そうなのに」


「人と飲むのは苦手でな。飲み会とは縁がねェ」


「なるほどね」





タバコの灰が、静かに畳の上に溢れた。
それを見たAが黙って差し出した綺麗な灰皿。

一本、役目を終えたタバコが寝転んだ。







「苦手って聞いといて、こんなお誘いは
おかしいかもしれないけど、ーー今度、酌でも
させてくれないかい？」


「・・・大人数がダメなだけだ」


「じゃあ、」

「・・・あぁ、」





重ね重ね、何をやってるんだと自分を責める。
「約束だよ？」と心底嬉しそうに頬を赤らめた女と
次会う算段を取り付けてしまった。






(ーー例えば、これが全部この女の、客を取るための
芝居だったとしたら)




俺を惹きつけたそいつの憂いの部分もすべて。
・・そりゃ相当な役者だろう。





ーーーいや、そうならばどれだけいいだろう。
そうすれば、計算高い遊女だと関心するとともに
呆れ果てて、俺はきっぱりこことおさらばできる。


それができねェのは、そうやって割り切れねェのは
こいつの全てが本当だからだ。

俺は結局、この女を切り捨てられなくなっている。

仕事で訪らた先で出会った、単なる情報提供者。
それで終わりのはずだった。







「用意して待ってるよ」



そう言って笑ったくせに、ーー女はすぐ、
後悔したように顔を伏せた。

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