呪術廻戦〜貳爪探し〜

無駄な意思 ページ45

…どれくらい走っただろうか

肩で息をし､動悸はバクバクと鳴り響いている

私は見慣れた…大きなガラス張りの家の前に立った

由梨の暮らしていた家だ

土地の広さも一般的なものと比べてもかなりの違い

元孤児だったとはいえ､転がり込んだ家がこんなお金持ちなんて…ある意味人生成功してたんだと思う

インターホンを押そうとしたら人差し指が､一瞬躊躇ったように動きを止めた

…由梨のご家族には､かれこれ半年以上は会っていない

お二人共､とても優しい老夫婦だった

由梨のことを本当の孫のように猫可愛がりしてて…少し羨ましいと思った時期もあった

けど…今回の件で､あの人達が私に対してどんな感情を抱いているのか…

それが怖くて､私は現実に蓋を閉めていたんだ

震える指で､インターホンを押す

ピーンポーン…

『…』

反応はない

家を見上げても､電灯は全て消されていることに今更気づいた

きっと留守なんだろう

…

私は少し考えた後､玄関の鉄柵門の前に座り込んだ

大丈夫､きっとすぐ帰ってくる

ポケットから夜風によって冷えきったスマホを取り出す

"少し寄りたいところがあるので戻れません 高専へ先に帰って下さって構わないです 帰りはタクシーでも拾って帰ります"

狗巻先輩へ､そんな単調なメッセージを送信する

明るく光っているスマホの画面にポツ､ポツリと水滴が広がった

空を見上げると､真っ黒な雲から雨粒が少しだけ落ちてきていた

『…雨』

段々と雨の勢いは大きくなっていく

普通ならここで…諦めて帰るだろう

だけど､もう動く気力も残っていなかった

私は顔が雨に濡れるのを防ぐため､組んだ腕の中に顔をうずめた

狗巻先輩に…伊地知さんにも迷惑をかけてしまった

先輩に限っては置いてきちゃったし…

…伊地知さん､困惑するだろうな

今度…ちゃんと謝ろう

私は伏し目がちにボンヤリと そう考えた

…それにしても…私は由梨のご家族に､一体何を求めているのだろうか…？

自分自身でも､答えは見つからない

濡れた制服が下着にペッタリとくっついて不快感を覚える

だけど今の私にとっては…同時に心地良いとさえ思えた

雨音が､ゴロゴロと唸っている雷の音が…

周囲の音を掻き消して…私に考える時間をくれているようだった

由梨のご家族に謝って…それから…

それから…？

…全部､全部考えても無駄だったのに

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