束の間 ページ23
「今日の動画の編集はAちゃん?」
「Yap. Ich werde das machen.」
(えぇ そのつもりです)
「宜しく頼みますよ」
と言われてから3日経った。
今わたしは絶賛編集中である。自分が出演しているといつもは迷いのない作業も迷ってしまう。うーん、ここの私のコメントは蛇足じゃないか??蛇足だよなぁ。なんせ初めてなもんで、自信がねぇ。
編集がなかなか進まず、ブレンドコーヒーも3杯目である。ついにはマスターが茶菓子をおまけしてくれた。
「お嬢さん、パソコンとずっと睨めっこですねぇ」
「...なかなか納得いかなくて」
「こういうときは甘いものでも食べたらどうですか?」
優しい声とコトンという音に顔を上げると小さなココット容器に入った可愛らしいプディング。「これは試作品なのでお代はいりませんよ」と言われ、有り難くいただくことにした。
うん、美味しい。昔ながらっていうのかな?素朴な感じがとても好きだ。
「お!佐山じゃん。お疲れ様」
「伊沢氏。お疲れ様でございます」
「動画公開でしょ?明日。どう?編集は」
「めちゃくちゃ倒置法で喋りますね。動画は編集が行き詰まってます...」
「そっかそっか。撮影も盛り上がったし、企画もよかったんだから自信持って編集していっていいからな!」
「Tak...」
「ちょっと人と待ち合わせしてるんだけど、それまで相席しててもいい?」
「あぁ、いいですよ」
「マスター、ブレンドコーヒーください」
この前の撮影は伊沢ボスの言う通り、盛り上がったし楽しかった。企画の手応えもあった。それは私だけでなく、メンバーの皆もそう感じている。ただ、なんだか"自分がそこにいるもの"に違和感覚えてしまう。むず痒いというか、気色悪いというか、なんとも表現しがたい何かなのだ。
「…悩んでるなぁ」
「はい…決断力はある方だと思ってたんですけどね」
「佐山はあると思うよ」
「作品を仕上げることは難しいです」
「ハハッ、そんなもんさ」
伊沢氏のスマートフォンが卓上で振動を始めた。どうやら時間的にも待ち合わせ相手らしい。
「もう行くね。根を詰めすぎないように。じゃ」そう言って席を立つ彼に「お疲れ様です」と挨拶をしてまたパソコンへと向かい合った。
「さっきの彼、お会計してくれてるよ」
「...まじか」
「かっこいい子じゃないか」
「マスター、勘弁してください。彼は出来杉君にも程がありますよ」
グラスを拭く、キュッキュッという音が心地よかった。
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作者名:モスモス | 作成日時:2020年4月13日 0時