【銀腕のイスカリオテ】One-Fiction【CS集】 (ページ6)

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彼を語る上で欠かせない事項として、「悪魔討伐軍元団長の実子」というものがある。
彼の父は英雄であった。高らかに声を上げ、威勢よく悪魔を、悪魔の子(イスカリオテ)を倒す。その様子は煌々と輝き、皆に笑顔と安心を与えてきた。
かくいうジューダスも、その笑顔を好いていた。尊敬していた。しかし、首の紋様を知る存在からは、「生まれついての裏切り者」と呼ばれた。
それでも、父はジューダスという息子を心から愛していた。数少ない休日には、女家族の男二人として、一緒に外出するのが常だった。おかげで、父が健勝であった頃__即ち、ジューダスが義務教育を終える頃までは、大きな苦労を感じることはなかった。

ところが、ジューダスが中学校に進級する頃、異変が起きた。
父が戦線にて、大怪我を負ってしまったのである。

見てられないほどの怪我だった。医学に精通している者が見ても、齢十二の子供が見ても、その怪我は、人間として受けるべきではない傷だった。
「父上」、と呼んでも返事をしてくれない。完全な昏睡状態であった。
死ぬ？死ぬのか？あの大きい背中の、気高く尊い戦士の、父が？
混乱のままに、涙をこぼした。皮肉にも父は、イスカリオテであるジューダスにとって、唯一と言っていい理解者だった。

そこで、ふと思いついた。思い立ってしまった。
あの日、遠いあの日に、転んで出た血に一瞬触れた、父の手の傷が瞬きのうちに完治したこと。

自分には、魔法があるのだと。
これは、自分にしか出来ないのだと。

思いついた時には、行動に至っていた。彼は自分の手首を、近くにあった彫刻刀で思い切り傷付け、その血を父に浴びせるように翳した。
悍ましい光景だったろう。実の子が、イスカリオテが、父にその生き血を浴びせる。他者から見れば、積年の恨みと言われる他はない。
それでもジューダスにとっては、これ以上に無く純粋な、とてもとても切実な、たった一つのねがいごとでしかなかったのだ。