【男攻主】テリーヌ型のプリン【東海ｵﾝｴｱ】 (ページ29)

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灰ゾーン・エージェンシー / 架空の第○○話「交差する思惑」4 ページ29

と「いきなり呼びつけるとかなんなんだよ、なんか面太郎さんの言ってることもキナ臭ぇし。俺早く仕事終わらせたかったのにさぁーっ！……ま、どうせ無理だろうけど。はぁー、どんな面をしてんのか拝んでやりたいもんだぜ、」

り「まぁ落ち着いてって、その人って社長にとっても気に入られてるんだよね？しかも入ったばっかの俺らに興味を持ってくれてる。もしも、もしもだよ。仲良くなれたりしたら、このひどい労働環境に目を向けてくれるかもしれないじゃん」

小声でぶつぶつと文句をぼやいているとしみつを宥めるように、りょうはいつもニコニコしてたらそのお面が外れなくなってしまいました、みたいな顔で優しく肩を叩いていた。

けどやっぱり気は乗らないなぁ、面倒くさい、とは呟いていた辺り不満は拭いきれないのだろう。社員が続々と退社していくのも無理はない。どこまでも墨汁に充たされた企業だ。

虫「にしてもいっつも無表情な面太郎さんがそんな苦虫噛み潰した顔するってそいつ、何を考えてんだろうね？またとんでもないことさせられなきゃいいけどね」

多「大丈夫だと思うんですけどね、だって気に入ってる人に無茶させるなんてあり得ないじゃないですか……多分、きっと私の勘がそう言ってます！」

虫「ははっ、最近わかったんだけどさ、多恵ちゃんの勘はかなり当たるからなぁ……本当に、そうだったら何の問題もないし、ご飯とか奢ってくんないかなぁ。無理か！」

普通にビジネスライクな関係であるならばこのぐらいの期待はしてもいいはずなんだけど、残念ながらこの会社は明らかにその、どのフツーにも当てはまることはなかった。区切られた窓を開けて今すぐにでも助けを求めそうになる。

便宜上手を繋ぐことも拒否する無愛想と、他人の家の門の前で待ち構えていた時みたいな居心地の悪さが、俺らを歓待する空気ではないようだった。それでも俺は、うっすらと感じとれる扉の向こうでの世界にほんの少しだけ期待していた。

ギリギリと扉を開く。歯ぎしりや爪を立てた時、聴き入れたそれにも似た音色がさらに不安を増長させる。だけど、何もしないことには何も始まらない。思い切ってジャングルよりもずっと怖い奥地に足を踏み入れた。

そこに広がっていたのは待ち望んでいた現実なんかじゃない。荒れた床に散らばった社員の人たちと、ドカッと椅子に座り込んでそれをあしらうように見つめるそいつの姿が、変なコントラストを生み出していた。