Zionの花束を17 (ページ6)

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忘れじの償い1 ページ6

面会、といっても、許された十分という時間は短い。
口数の少ない眼鏡はその短い時間でピアニストの青年に伝えきれるだろうか。多少の不安はあった。口下手は自他共に認めるところなのだ。
ガラス越しの面会で、久しぶりに見たような気がするピアニストは顔色が悪いように感じていた。きっと、あのとき彼は、想い人と心中を遂げるつもりだったのだろう。駆け落ちとか、他にも方法はあったとは思うが、見るに二十代の青年、そこまで冷静に物事を見る視野はなくて仕方ないのだろう。
ただ、彼が心中を求めた理由は知識の乏しさだけではないような気がするのだ。もっと奥深い感情──例えば、自分が片想いと思っていて、それでも諦めきれなかったからとか、好いている人を自ら手にかけた罪悪感から、など。
後者だと、あまりよくない。牢に入れられても、自ら命を絶つ方法はある。
つまりは、死んでほしくないのだ。ピアニストはもうピアニストという座には戻れないかもしれない。けれど、それとは別として、彼に生きてほしかった。
それは先日、顎髭に話したような理由と似ている。
ふらふらと席に就いたピアニストはきっとそれをわかっていない。若いからこそ、命の償いの方法は命でしか果たせないと思っているのだ。
「それは、間違いだよ」
口下手な眼鏡は、過程を無視してまず結論を述べた。
「僕の罪が罪と呼ばれるくらい間違っているのはわかっていますよ」
いや、そういうことではない。
眼鏡は苦手な言葉を捏ね繰り出す。
「違う。法的な裁きの部分ではない。君が考えているであろう、彼女への償いだ」
青年は諦念を浮かべ、首を傾げる。
命の罪は命で以て償う。それは一種正しい考え方だが、短絡的だ。
眼鏡は端的に事実を述べることにした。
「君が死んだところで、彼女が報われるわけでもないし、ましてや生き返るわけでもない。それはわかるね?」
「そう、ですね」
いくら償いだなんだと命を差し出したところで、さしたる意味はないのである。
「君が死にたいくらい後悔しているのはわかる。もう一発、銃弾が残っていたら、共に死ぬつもりだったのだろう?」
「共に死ねば、永遠になる、と言われました」
自分の中で、彼女を永遠にしたかったのか。それは歪んでいるが確かに愛の一種である。
だが、死ねなかった今、考えるべきことは後追いではない。
「生き残ったということはできることがまだあるということだ。生きていても、償う方法はある」
青年が僅かに顔を上げた。