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元気で7 ページ14

昼のうちに話してきなよ、と顎髭に言われ、息子夫妻の席にやってきた眼鏡。
「お義父さま、お久しぶりでございます」
「……そう堅くならなくていい」
堅い挨拶をする倅の嫁に眼鏡が告げるが、彼女は何が面白かったのか、片手で口元を押さえ、くすりと上品に笑った。
「お義父さまの方がよほど堅い表情をなさっておりますわ」
「そうだろうか」
この場に顎髭がいたならきっと、こいつのこれは地なんだ、すまないね、と勝手に話を進めるのだろう、と思ったが、眼鏡がそれを真似ることはなかった。理由は言うまでもない。柄ではないからだ。
さて、早速話に詰まってしまったのだが、どうすべきだろうか、と話題に悩んでいると、女性が姿勢を正し、深々と頭を下げた。ぎょっとする間もなく告げられる。
「婚儀の際はお義父さまにご相談もなく執り行ったことをお詫び申し上げます。私のような不束者ですが、彼の傍らにいさせてください。事後承諾で大変申し訳ないのですが」
「……いや」
少し考えるように目を閉じてから、眼鏡は女性を真っ直ぐ見据え、顔を上げてくれ、と答えた。
「君を、不束と思ったことはない。それと」
口下手が代名詞の眼鏡にしては懸命に言葉を紡いだ。
「婚儀承諾の挨拶なら、Zionでのコンサートのときに済んでいる」
結構前の話で、そのとき二人は結ばれようなどと思っていなかったかもしれない。
けれど、なんとなく、わかったのだ。倅はこの女性となら、幸せに暮らせる、と。不便なことは多いだろうし、数多の苦難が二人の前に待ち受けるだろう。けれど、その手を引けぬほど、倅は男が廃っているわけでもない。彼女もしっかり芯を持った女性だと感じた。
故に、二人が結ばれたことは必然のように思えた。眼鏡は息子夫婦も招くことになって、どのような人物が倅の妻としてやってくるのか、少々心配であったが、彼女であるのを見て、それを自然に受け入れていた。それ以外であったなら、言葉を尽くして追及したかもしれない。
「それくらい、私は君のことを認めている。胸を張りなさい」
「お義父さま……」
まあ、そもそも、と自分の席を僅かに振り返る。淑やかに紅茶を飲む婦人がそこにいた。
あれが下手なやつを認めるわけがないのだ。
そういう信頼が、元夫婦の間にもあった。
眼鏡は穏やかな顔で微笑む。
「孫の顔を見せてくれてありがとう」
その言葉は自然に出てきた。
顎髭が散々、家族がいるのが羨ましいと言ってきた気持ちが、今、わかったような気がした。

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作品ジャンル:純文学, オリジナル作品
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作者名:九JACK | 作成日時:2021年2月23日 7時

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