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No.22 ページ23

『私は……』

とまで言って、Aちゃんは踏みとどまる。


吐き出そうとした言葉がヒュッと空気になって消えた。

彼女は泣きそうだ。本当に言っていいのかと自分の中で葛藤している。




Aちゃんが俺に隠していたこと。とても言い難いこと。


彼女を苦しめている何かを知りたかった。

どうにか力になってあげたいと思った。


「お、俺は……絶対にAちゃんのこと、失望したりなんかしないから!!」



彼女の肩を掴む力が無意識に強くなる。

するとAちゃんから表情が消え、彼女は人形のように無機質に言った。

少し怖い、と初めて思った。




『私は罪を犯した。

私怨で、人を殺したことがあるの』



「……え?」



Aちゃんが、人を?




どうして。

こんなに心の音がキレイな子が人殺しなんてする訳が_



『ねぇ、善逸くん。それでもあなたは_私を好きでいてくれる?』


その問いに。

俺はただ動揺するだけで。

何も答えられない。




するとAちゃんは悲しそうに笑った。

赤い目は相変わらず綺麗だけど、絶望に濡れている。




『私、善逸くんのそういう素直なところ、好きだよ』


まるで、俺がこうなることを分かっていたかのようだった。


「…っ、ごめ」


しかし、それを遮ってAちゃんは笑顔を浮かべたまま、


『さっきの答えだけど、ごめんね。そういうことだから。


…私はもう、善逸くんに会いに行けないかもしれない』



そう、彼女は言った。


岩で頭を殴られたようにじんじん痛みが響く。

彼女の声が、言葉が、頭痛がするほど耳を木霊して。



『あとね、』

立ちすくんだ俺の近くに行き、Aちゃんはそっと俺の頬に触れる。


細くて柔らかい手。その手は異常なほど冷たかった。

その手で、誰かの命を奪ってしまったのだろうか、なんて最低なことを考えた。




頬を触れられ至近距離になって、Aちゃんは


『私がまた誰かの命を殺めることになったら、善逸くんが私を殺してね』


なんて言ってきて。


彼女は心からそれを願っているようだった。

願っているかのような口調で。




そして、Aちゃんは風のように姿を消した。



俺だけが取り残された。


好きな女の子でさえ救えない臆病者は、絶望した顔で膝から崩れ落ちた。

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作成日時:2020年1月23日 15時

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