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「お召しによりまして参上仕りましてございます。」

そういった後、手をついて深々と頭を下げた。

「そう固くせずとも良い、さっさと顔を上げんか。」

甚兵衛様にそう言われては、逆らえるはずもない。

すっと顔を上げると、斜め前に座っていた姫君が、じろりと私を見つめていた。

当たり障りのないように、口の端をわずかに上げて微笑んでみせた。

ふいっと姫君は顔をそらしてしまったけれど。

「Aよ、今日そなたを呼んだのには事情があってな。」
「はい、何でございましょう」
「実はな、」
「殿、わたくしからお話しいたしますわ。」

甚兵衛様を遮り、姫君が口を開いた。

甚兵衛様を遮るというあまりにも無礼な行為に、お義父様がわずかに眉を潜めた。

このような、世間知らずで礼儀を弁えていない者はどこにでもいるもの。

私が一国の姫であったときにも、時々目にしたものだった。

このような類いの方々は、少しでも気に入らないことがあるとすぐに怒鳴り散らし、理性を失う。

彼女を、あまり刺激しすぎないほうが良さそうね。

「A、と言ったわね。」
「…左様でございます。」
「お前、雑渡昆奈門様の許嫁だというのは本当なの?」

どう答えたものかと、ちらりとお義父様と雑渡様に目を向ける。

お義父様がわずかにこくりと首を縦に振ったので、正直に答えることにした。

「はい。恐れ多くも、許嫁として置いて頂いております。」
「お前のようなものが、昆奈門様の許嫁だなんて。」
「…」

黙ってすっと頭を下げる。

ここで決して怒ったり、言い返したりしてはいけない。

そのようなことをすれば、彼女が烈火の如く怒り、手がつけられなくなることは明らかだった。

新たな火種を生んではならない。

19年、一国の姫として生きた勘でもあった。

「なにも言えないわけ?全く、面白みもない人だこと。」
「そこまでだ。」

黙って聞いていた甚兵衛様が、立ち上がった。

「わしの娘にも等しいこの娘を侮辱するのはそこまでにしておくがよい。」

甚兵衛様の瞳には、わずかに怒りが滲んでいる。

「不愉快だ、出ていけ。」

一瞬で顔を真っ赤に染め上げた彼女は、礼もせず部屋を出ていってしまった。

甚兵衛様は、上座に座り直し、ため息をついた。

「あら、まあ。」
「そなたもなにか言い返さんか!」
「あのような類いはなにを言っても無駄ですし…」
「まあよい、もっとこちらへ寄れ。こうなった訳をお前も聞きたいだろう。」

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設定タグ:忍たま , 雑渡昆奈門 , タソガレドキ   
作品ジャンル:恋愛
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ゆき - ハナイツキさん» 今までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!最初の方から何度もコメントを頂いて、本当に励みになりました!感謝の言葉しかございません。さらなるいちゃらぶを目指しますので、続編もよろしくお願いいたします! (5月2日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ハナイツキ - 完結お疲れ様です!本ッッッッ当に大好きな小説です!もう雑渡さんにキュンキュンしまくりで、最後の結婚のくだりでは涙ぐみながら読むくらい、、続編も読ませていただきます!雑渡さんとのいちゃラブ生活のご提供、本当にありがとうございました!!! (5月1日 23時) (レス) @page50 id: a0586360be (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - ミリリン(・ω・)さん» 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。続編も書こうと思っておりますので、気長にお待ちいただければと思います。続編もよろしくお願いいたします! (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - astrumさん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!続編については、書いてみようかなと思っております。続編の方も、よろしくお願いいたします。雑渡さんとのいちゃらぶ生活…頑張ります笑 (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ミリリン(・ω・) - え?好きです。 ヤバイですね むっちゃ面白かったです! 続編出たら絶対読みます。 気長に待っています! お疲れ様でした! 素敵な作品をありがとうございました! (2023年3月28日 21時) (レス) @page50 id: 5a9db1aae6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆき | 作成日時:2022年1月30日 0時

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