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爆音が鳴り響く。
バキバキバキ、と音を立てて城が崩れていった。
ちりちりと火の粉が舞っている。
ああ、お父様、お母様…
ぺたりとその場に座り込む。
私が19年暮らした城が、父と母を飲み込んでついに全壊した。
「姫様!お立ちください!ここは危険です、参りましょう!」
「まって、お母様が。お父様が。」
「A姫様!」
ぐっと腕を掴まれる。
「姫様。あなたは生きねばなりません。殿と、奥方様があなた様をお逃しになった理由が分かりませんか。」
ふるふると唇が震える。
「わたしは。わたし、は…」
「聡明な姫様なら、お分かりのはず。あなたは生きて、生きて、幸せにならねばなりません。」
はらはらと雫が頬を伝う。
生きて幸せになりなさいと仰ってくださったお母様。
お前は逃げなさい、と私の背中を押したお父様。
わかっています。分かっているのです。
私の幸せを願ってくださったお父様とお母様の気持ちは、理解しているわ。
ただ、身体と感情がついていかないだけ。
尚も身体が動かない私を、目の前の男は抱き上げた。
「姫様、少々飛ばします。」
「ええ。」
ぐっと涙を拭いて顔を上げる。
今、涙を流すべきではない。
びゅんびゅんと風景が遠ざかってゆく中で、ちらりと人影が見えた気がした。
「ちっ…追いつかれたか。」
そうぽつりとつぶやいた男は、木の後ろへと隠れた。
「姫様、ここで私が追っ手を引き止めます。姫様はこのまま、北へお進みください。そうすれば、匿ってくれる屋敷があるはずです。その家は、昔家臣だった者の家です。信用に足る方です。連絡は付けてあります。」
そんなことをすれば、この男は死んでしまう。
「そんな、そんなことをすれば、あなたは…」
「いいえ。姫様、私の使命は姫様を命をかけてお守りすること。忍びは、何があっても主から下された命を遂行せねばならぬのです。この先、お供できぬことをどうかお許しください。」
覚悟を決めた者の目だった。
それならば、私はなんとしてでも生き延びなければ。
「…長年のお勤め、ご苦労でした。あなたの忠誠心、思いは決して忘れません。」
背筋を伸ばして、長年城の忍びの一員として努めてきた男の目を見つめる。
「光栄です。どうか、ご無事で。さあ、お行きください。」
その声を背に、走り出す。
半刻ほど走り続けると、森の中にひっそりと立っている屋敷があった。
安心したのか、そこで私の意識はぷつりと途切れた。
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ゆき - ハナイツキさん» 今までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!最初の方から何度もコメントを頂いて、本当に励みになりました!感謝の言葉しかございません。さらなるいちゃらぶを目指しますので、続編もよろしくお願いいたします! (5月2日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ハナイツキ - 完結お疲れ様です!本ッッッッ当に大好きな小説です!もう雑渡さんにキュンキュンしまくりで、最後の結婚のくだりでは涙ぐみながら読むくらい、、続編も読ませていただきます!雑渡さんとのいちゃラブ生活のご提供、本当にありがとうございました!!! (5月1日 23時) (レス) @page50 id: a0586360be (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - ミリリン(・ω・)さん» 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。続編も書こうと思っておりますので、気長にお待ちいただければと思います。続編もよろしくお願いいたします! (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - astrumさん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!続編については、書いてみようかなと思っております。続編の方も、よろしくお願いいたします。雑渡さんとのいちゃらぶ生活…頑張ります笑 (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ミリリン(・ω・) - え?好きです。 ヤバイですね むっちゃ面白かったです! 続編出たら絶対読みます。 気長に待っています! お疲れ様でした! 素敵な作品をありがとうございました! (2023年3月28日 21時) (レス) @page50 id: 5a9db1aae6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2022年1月30日 0時