7話 ページ9
私は驚きで言葉が出なかった。どうして亮さんがそれを。
「たまたま見てたんだよ、土手の上からね。お前も夏川も気付いてないみたいだったけど」
まさか見られていたなんて。思い返してみると、純さんや哲さんはいつも通り一緒に来ていたけどその中に亮さんの姿はなかったことを今更ながらに気が付いた。
「…倉持、彼女出来たんだってね。先輩が必死になって野球漬けの日々を過ごしてるのに、生意気」
「はは、そうですよねー…。ところで亮さん、なんで知ってるんですか?」
にっこりと笑顔を深める亮さん。威圧感がすごい。
笑うしかない。
「俺のクラスに誰が居るか、思い出してみなよ。一人居るでしょ?そういう類の漫画が好きなやつ」
純さんだな。間違いなく純さんだ。
あの人強面なのに少女漫画好きだもんなぁ。
「純がね、クラスの吹部の女子から嗅ぎつけてきたんだよ。相手の子、吹部らしいじゃん」
嗅ぎつけたって、そんな警察犬みたいな……。
「まぁそこはどうでもいいんだけどね。
…お前はどうなの?」
「どう、とは…」
「倉持のこと。まぁあんなに長く片想いしてたんだから簡単に諦めはつかないと俺は思ってるけど?」
「はは、仰る通りです…」
相変わらず、ニコニコしながら痛いところを突いてくる亮さん。
苦笑いを浮かべて頬を掻くと、頭にポンポンと触れる何か。
周りの部員より一回り小さいけれど、マメだらけで硬い掌。亮さんの手だ。
「倉持も見る目がないよね。一番近くにこんなに想ってくれる奴が居るのにさ」
いつも自他共に厳しくてストイックな亮さんに頭を撫でられて慰められている。
その状況にビックリして思わず亮さんの顔を見た。
亮さんは優しい兄のようで、それでいて何かに怒っているような表情をしていた。
「亮、さ……っ、すみませ、」
目頭が熱くなって零れ落ちる涙を手の甲で拭うと、亮さんはそれ以上何も喋らなくなった。
ただ、私が泣き止むまでずっと隣で待ってくれていた。
「………」
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マリイ - 丹波光一郎の小説も書いて欲しいです 丹波さん好きだけど小説無いんで (2020年8月15日 17時) (携帯から) (レス) id: 82a6cba0ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:マカロニ | 作成日時:2020年7月24日 12時