検索窓
今日:4 hit、昨日:1 hit、合計:15,784 hit

百二十七話/絶え間なく過去へ押し戻されながら ページ37

「同棲なんて聞いてませんよ!」


鳥の声が響く爽やかな朝。そこに中島敦の叫びが加わり、心の安寧をもたらす静けさは完全に破られる。


「ーーーー」


隣の着物姿の少女は泉鏡花。
Aと太宰を捕らえた人物で、強力な異能を持つ故ポートマフィアに利用されていたところを敦が助けたのだそうだ。

彼女の異能力は『夜叉白雪』。携帯からの指示で動く仮面の異形を従える。
字面からは、戦闘に向いている異能力だと判断する。

本人の意思もあり、探偵社員になった彼女は今日から敦と同棲するのだという。
急なルームメイト変更。予告もなしのそれに敦が動揺するのも頷ける。
そんな彼の抗議に唯一人、瞳を輝かせる者があった。


「敦君!」


「わ、っAちゃん!あれきり帰ってこないから、僕ずっと心配してて……」


思い出されるのはAと共に姿を消した太宰。彼に対する探偵社員たちの評価だ。
太宰なら大丈夫。太宰と消えたAも大丈夫。なんていう謎理論で無理やり納得させられた記憶がある。


「……って、ちょっと!?」


「敦君敦君敦君敦君……!」


飛び付き、抱きついてくるAに敦が顔を赤くする。


『貴様を縛り付ける枷を僕が焼き払い、討ち滅ぼしてやる』


地下牢でAにそう告げた芥川は本当に敦と戦ったらしい。
死闘を繰り広げた結果の勝敗はどうなったのか。
それは、健在な敦を見れば聞かずとも判る。


「んー久しぶりの敦君……」


だからこそ、彼の今の命は薄氷の上にあるものだと再確認する。愛おしさが増して腕の力を更に強めた。
そんな過剰なスキンシップに敦が耐えられる筈もなく、回された手を引き剥がそうとする。
が、Aの細腕からは想像もつかない腕力が敦にそれをさせなかった。
ーー否、この場合は敦がそれを出来なかった。しなかった、と表現する方が正確かもしれない。


「朝から熱いねー、お二人さん」


「ーーーー」


判りやすい好奇と読み取れない不可解な感情。朝っぱらから抱き合う二人に二つの視線が刺さっている。
その事実にいち早く気付き、現実へと意識を回帰させたのは意外にも敦の方だった。


「えっと、これは違くて。いや違くないんですけど」


「ーーーー」


「同棲。そう、同棲です!なんで急にそんな、Aちゃんは……」


話を戻し、敦がAを見る。そこに絡められた感情に太宰は目を細めると、


「部屋が足りなくてねえ。それに、彼女達は納得しているよ」


そう告げる彼は厭に御機嫌だった。

百二十八話/無知は罪也→←百二十六話/無言の謝罪



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (44 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
113人がお気に入り
設定タグ:文スト , BSD , 原作沿い   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:女中 | 作成日時:2022年6月11日 11時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。