百十七話/黒歴史 ページ27
｢ーーーー｣
扉に手をかけたところで、背中に突き刺さる視線。
予想はしていたが矢張りーー追い付かれた。
｢お決まりのパターンですね！！……ふふふ。ーー太宰さん、今何時ですか｣
｢え、Aちゃん？……私、怖い｣
驚いた？とでも云うつもりだったであろう太宰が、Aの人格崩壊状態にかなり引いている。
なんというか、もう繕うのに疲れた。そして太宰の存在に慣れたのだと思う。
貴方のことならなんでもお見通しというヤツだ。
｢これは深夜テンションです｣
｢今、昼なのだけど……｣
｢昼！？ですか｣
｢うふふ……そうだよ？｣
Aの態度の変容ぶりを置き去りに、気味の悪い薄ら笑いを浮かべて太宰はスマホを見せた。
画面には時刻、一時二十分の表示。
ーー何が永井Aの朝は早いだ。恥ずかしい。
｢ーーーー｣
その、表情豊かなAを見て、太宰は上機嫌に世間では笑みと呼ばれるものをつくる。
｢何でもお見通しをお見通しという訳ですね｣
｢なんて？……あ、そうそう｣
照れ隠しの軽口を華麗にスルーする太宰。彼はそれから何やらスマホを弄りだし、Aへ再度画面を向けた。
顔の前に差し出された画面に一瞬躊躇う。
が、直ぐに持ち直し、覗き込んだ。
｢これ、私……？｣
疑問形なのは、それが本当に自分か疑わしかったから。
ーーそこには身に覚えのない、しかしどこからどう見てもA本人の映像が流されていた。
中身については自重のため控えるが、兎に角とんでもない女の様子が記録されていた、とだけ云っておく。
酒に酔っているように見えるが、太宰の部屋から酒の匂いはしなかった。つまり、これは
素面で太宰にこんな痴態を晒したということか。
｢死にたい｣
この時この瞬間、Aの人生に新たな黒歴史が刻まれることとなった。
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作者名：女中 | 作成日時：2022年6月11日 11時
