百十四話/信頼 ページ24
｢ーーーー｣
敦のことも心配だった。
移動の際に、芥川が敦の元へ向かったと伝えたのだがーー｢敦君なら心配要らないよ｣と太宰は薄く笑うだけだった。
太宰や敦のことを信用していない訳では無いが、懸念は拭えない。
というか、完全に安心出来るものなんてこの世には一つたりとも存在しない。
一分、一秒が惜しい。
｢云い忘れてたけど、時間なら大丈夫。中也が手回ししてるから、マフィアが異変に気付くのはもっと先の筈だ｣
Aの後ろに立ち、同じ画面を見つめる太宰は中也と敦を余程信頼しているらしい。
中也が交渉内容を反故にすることも、敦が芥川に敗れることも、まるで頭にない様子だ。
特に、彼が中也について話す時は、時の重みを感じることが多い。
共に過ごした時間が長いのだろう。
二人は元相棒なのだという。
時間の関係もあり、それ以上は詳しく踏み込めていないが、憧れの人についての話だ。好きなものでもなんでもいいから必ず聞き出すことも決めた。
ーーそう、帰ったら。
｢ーー！太宰さん、これ……！｣
膨大な情報量。気の遠くなるようなそれから、Aは
そして、機械に劣らない速度で目線を滑らせた。
記録されていたのは、敦の外観についての情報、懸賞額、最後にーー、
｢『
聞いたことの無い名前ーー組織名だろうか。
｢ーーーー｣
新たな情報を求めて画面を見るが、『組合』について特段詳しいことが書いてある訳でもなく。
唯一の情報は、組織の長の名前と、その特徴だけだった。
スーツに金髪の男。彼の名はーー、
｢フランシス・フィッツジェラルド｣
これまた聞き覚えのない名だ。彫りの深い端正な顔、そしてこの名前から、彼が日本人でないことの確証が得られた。
ーー圧倒的な情報不足だ。
｢太宰さんは何か……｣
｢……ん、あぁ。聞き覚えはあるよ。ーー『組合』は北米異能者集団。フィッツジェラルドはその組織の団長だ｣
｢ーーーー｣
｢実在する組織なのかも判らない集団だったけど……まさかこんなところでお目にかかれるとはね｣
｢……そう、なんですね。……残念ですけど、行きましょうか｣
微かに太宰の頬が強ばっていたことには言及せず、Aは太宰に背を向け、部屋の配置を元来た時の状態に戻し始めた。
何だか、見てはいけないものを見た気分だ。太宰があんな表情を見せるなんてーー、
｢そんなに、危険な集団なんですか？｣
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作者名：女中 | 作成日時：2022年6月11日 11時
