百十二話/共犯者 ページ22
微かな足音すら拒むポートマフィアの廊下を、Aと太宰は歩いていた。
どんどん進んでいく太宰の背中にさりげなく身を隠し乍ら、Aはおっかなびっくり足を動かす。
いつ、脱獄したとばれてもおかしくないのだ。何故ならーー、
｢……他にもっとマシなの無かったんですか？｣
｢似合ってるじゃない、サングラス。やり過ぎないくらいが丁度良いのだよ｣
サングラスの奥で、太宰が可愛くウィンクしたのが見えた。吐きそうだ、というのは云いすぎか。
とはいえ、サングラスだけでは、ばれるのは本当に時間の問題だ。再度捕まることは避けたい。
｢そんなに怯えなくても大丈夫だよ。ーーあ｣
｢あ、じゃなくて……来ました来ました来ました来ました｣
砂色の外套の裾をつかんで、Aは小声で訴える。何処にでもいる短髪で、黒髪の男、身長は平均程度。ーー曲がり角から黒服が姿を現したのだ。幸い、此方の正体には気付いて居ないようだがーー。
｢やあ、ご無沙汰！ーーほら｣
｢……久しぶり｣
｢え？ど、どうも｣
黒服はそのままA達の横を素通りしていく。
そのまま進んだ太宰はある扉の前で止まると、中也に聞いたのか、ロックを手馴れた手つきで解いてその中へと入っていった。
取り敢えず脅威は去ったとAは一息。それからーー、
｢あんな時に無茶振りしないで下さい！｣
｢『久しぶり』……ふふ、ははは！あの時のAちゃん雰囲気が別人みたく変わってて驚いたよ、全く……ふふふ｣
先刻、言葉尻にAに何か云えと要求してきた太宰が頭の中でちらつく。
ばれたいのかばれたくないのか、小声で無茶振りを要求してきた太宰の姿は暫く忘れられそうにない。ーーあの悪戯に細められた瞳も。
｢いいから、早く敦君を懸賞首にした人物について探しましょう。……矢っ張り良くないです。後で埋め合わせはしてもらいますから｣
｢えぇーあんなの唯の遊びじゃないか｣
｢これってどうやって動かすんですか？｣
｢あ、無視した｣
売り渡せば一生を遊んで暮らせるくらいの情報が入っているであろうパソコンの前で、Aは眉を寄せていた。この中にあるのは一度、例え視界の端に少し入れただけでも死刑になるような危険な情報ばかりだろう。見てしまえば、後には戻れない。
｢ーーはい、これでAちゃんも共犯者｣
頭を悩ませているAの後ろから、パソコンを操作していた太宰が目を細めた。ーー悪戯に細められたあの時と同じ瞳で。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 113人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：女中 | 作成日時：2022年6月11日 11時
