49 ページ49
「A級に戻るという話は、今は保留にしておこう」
忍田さんは努めて優しく私に語りかける。Aのペースでいけばいいさ、そういって温くなったコーヒーを手に取った。
「ただC級にいるのは肩身が狭いだろう。ソロでいいからせめてB級にならないか」
「ソロ、ですか」
「ああ。本当はチームを組んで欲しいが迅達は1人で一部隊だからな。それに個人を相手にするとまだ辛いんだろう」
ぴくり、と手に力が入る。
「Aの力はボーダーには必要だ。これは本部長としての意見になるが防衛任務にも出て欲しい。トリオン兵なら戦えるか？」
「……はい」
それは存外都合のいい知らせだった。彼には何もかもお見通しらしい。
「任務には一人で行かせないように手配する。辛い時は言ってくれ」
「……お心遣い、感謝します」
「大切な1人の弟子だ。心配くらいさせてくれ」
彼の期待に応えるため、そして重く伸し掛る自分の業と、ひとり自分の世界で生きる迅のため。私はB級になることを決めた。
。。。
執務室のドアノブに手をかける。そういえば、とポケットの中に入っている1枚の紙切れの存在が頭をよぎった。
「忍田さんに聞いていいのか分からないんですけど」
「なんだ？」
「この紙、以前城戸さんが使っていた部屋から出てきたんです。私の名前が書いてあって。これ、何か分かりますか？」
ポケットの中から小さくシワになっている紙を取り出し、彼に見せる。彼はどれ、と言いながら私の手の中にある紙に目を落とす。数秒、その文字を見つめていた。
「……いや、知らないな。なぜこれが？」
「三雲くんがその部屋を使うので、掃除をしていた時に」
ふむ、と忍田さんは少し考え込むようにその紙に視線を落としている。すっと忍田さんの手が伸びる。
「私から城戸司令に聞いてみよう。預かってもいいか」
「はい」
ありがとう、忍田さんはそう言うと「もうこんな時間か」と時計に視線を向ける。そろそろレイジさんが迎えにくる時間だ。私は挨拶をしてそのまま執務室を後にした。
。。。
彼女がいなくなった部屋。ひとつため息を吐いてソファに腰掛ける。彼女から預かった紙を広げ、再びその文字に視線を落とした。
「これでいいんだ……そうですよね、月刀さん」
呟いた言葉は誰に届くわけでもない。自分はまた後悔する道を選んでいないだろうか。彼女が望んだ未来は本当にこれでいいのだろうか。飲みかけのコーヒーを手に取った。そのコーヒーは既に冷めていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 628人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ワールドトリガー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鏡 - なぎささん» なぎささんコメントありがとうございます！好きと言って頂けるだけでありがたいのに5回も読み直して頂けるなんて恐縮です…！本当に本当にありがとうございます！嬉しすぎて泣きそうです…不定期更新でご迷惑お掛けしますがこれからも頑張りますね！ (2022年10月1日 20時) (
レス) @page49 id: 79e67df0bc (このIDを非表示/違反報告)
なぎさ(プロフ) - 更新ありがとうございます！この小説が好きすぎて5回は読み直しました...これからも応援しております🥳ご無理のない程度に頑張ってください！ (2022年9月30日 20時) (レス) @page48 id: 0fe7f18098 (このIDを非表示/違反報告)
鏡 - 璃々さん» コメントありがとうございます！手探りで進めているようなお話ですが面白いと言って頂けて本当に嬉しいです！続きも待ってくださるなんて本当に嬉しすぎて転げ回っております…本当に励みになりました！不定期更新で申し訳ないですがこれからも更新頑張りますね！ (2022年7月30日 0時) (レス) id: e6b083c4a6 (このIDを非表示/違反報告)
璃々(プロフ) - コメント失礼します！近界から帰ってくるっていう新しいタイプのお話ですごく面白いです！！！夢主の実力がどのくらいかとかほんとに気になって仕方ないです…続き楽しみに待ってます！頑張ってください!!! (2022年7月29日 19時) (レス) @page31 id: e950c5fcca (このIDを非表示/違反報告)
鏡 - ゆん。さん» コメントありがとうございます！世界観にハマるだなんてとてもとても嬉しいお言葉ありがとうございます！私もゆん。様のお言葉に励まされ飛び上がって喜んでおります…！これからもちょこちょこ更新しますのでどうぞよろしくお願い致します！ (2022年7月15日 12時) (レス) id: d84ec32568 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鏡 | 作成日時：2022年6月30日 2時
