遠き日、消えた君【WT】

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「旧ボーダーの頃に向こうの世界に行って、そのまま残っていたんです。つい最近、偶然こちらに戻ることができて……」

ぐっと自分の手を握る。そうだ、嵐山さんと話して忘れかけていたけれどこの手は人を殺した手だ。

「月刀さん……？」

嵐山さんは不思議そうに私を見る。どこか心配しているような目だ。その目に映る私は不安定に揺れているようだった。

「あ、いえ……。近界で5年もたっていたのでボーダー自体は除隊になっていて。それで今回また入隊したんです」

嵐山さんの瞳から逃れて、私は自分の手を見つめる。手は小さく震えていた。私の言葉を嵐山さんは静かに聞いていた。少しの間があって、隣で小さく動く気配。握りしめていた手に別の感触。震えていた私の手を嵐山さんが優しく包んでいた。思わず顔を上げて、隣を見る。隣には眉をよせた嵐山さんが心配そうに私の手を見つめていた。

「……辛かったんですね、手が震えてる」

トリオン体の手は僅かな彼の温度を伝えてくる。私の手を見つめていた彼の瞳が私を捉えた。

「無理しないでくださいね。迅や俺がいますから」

ふっと握りしめていた手を離す。彼が私を心配してくれる、その理由を記憶の中で探した。彼と出会ったあの日も、私は人を殺してしまった自己嫌悪につぶされそうになっていた。そんな時に嵐山さんは私に話しかけてくれた。だからきっと嵐山さんの目にはあの日の私と重なったものが見えたんだ。

どこまで優しい人なんだろうと思った。正当防衛とはいえ人を何人も殺してきた私の手を包むほどの。彼はその有り余るくらいの純粋な正義感でここにいる。

「……ありがとうございます」

弱弱しく紡がれた私の言葉は隣に座る彼に届いたようで、彼は小さく笑った。

「迅が動揺してた意味が分かった気がする」

「え？」

「いや、こっちの話。……それより俺のことは嵐山って呼んでくれ。同い年なんだろう？」

小さな声で嵐山さんは何かを呟いたけれど私にはうまく聞き取れなかった。その代わり嵐山さんは先ほどまでとは変わったように軽い雰囲気で私に話しかける。

「あ、はい……えっと私のことも名前で呼んでください」

「はは、敬語もいらないよ。よろしく、A」

「よろしく、」

ついさっき私の手を包んだ彼の手は、今度は私の手のひらを握りしめる。握手を交わした彼の手は大きかった。嵐山准という人は、太陽のような周りを照らす温かい人だと思った。

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