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その日の夜、また夢を見た。
「私が残るよ」
そういった彼女に、俺は手を伸ばした。いつもと違ったのは彼女が振り返ったこと、彼女の瞳は俺の手を見つめたこと。
A。
彼女の名前を呼ぼうとしたけれど、俺の声は音にならなくて口から空気が漏れ出るように声は届かなかった。
俺の手を見ていた瞳は、瞼を閉じてゆっくりとそらされた。俺の指先からどんどん熱が逃げていく。光の中に消えていく彼女にまたしても俺の手は届かなかった。
「ッは」
息を吐き出して、その苦しさに思わず目が覚める。外はまだ薄暗かったが枕元の時計を見るとちょうど朝日が昇るくらいの時間だった。
まだ呼吸は浅い。ゆっくりと息を吸って吐いて、心臓を沈めるように、再び瞳を閉じた。
どうしたの？
彼女はそう言う。
大丈夫、帰ってきたんだよ、ここにいるから。
俺の瞳に映る彼女は困ったように笑って優しそう言うんだ。それが、これからの未来。
今を生きようなんて、俺は言ったけれど、A以上に過去に囚われている。
閉じていた瞼を開けて体を起こす。ぎしりとベッドが鳴って、俺は自分の部屋を後にした。向かった先はAの部屋だ。
彼女がいない間ずっと掃除をしていた。始めたのは俺からだった。いつ戻ってくるかもわからない彼女の部屋、いつでも使えるように。それは願掛けに似たものなのかもしれなかった。
ドアにそっと手をかける。
「A、起きてる？」
そう、俺が声をかければ、Aはおはようと返事をしてこのドアを開けてくれる。それが確定している。一つずつ未来を確かなものにしたかった。
「どうしたの、迅？」
起きてはいたけれど、多分、ついさっき起きたんだろう。まだ眠そうな彼女が俺にそう問いかける。さっき見た未来が繰り返される。
彼女は眠そうな目を擦りあげて、俺の瞳を見つめる。夢の中で見た消えていく彼女と目の前の彼女がダブって見えて俺は何も言えなかった。
Aはゆっくりと口角を上げて困ったように笑う。
「大丈夫、帰ってきたんだよ」
いつもの俺ならもっとクールに決めてるところだ。でも彼女を前にするとどうしてもそんな風にかっこつけることができない。
5年の年月は短いようで長く、俺の中に消えることのない爪痕を残している。
「ここにいるから」
優しそうに笑うAを目に焼きつける。あの夢を見ないように。もう二度とどこにも行かない、そう約束してほしい。
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鏡 - なぎささん» なぎささんコメントありがとうございます！好きと言って頂けるだけでありがたいのに5回も読み直して頂けるなんて恐縮です…！本当に本当にありがとうございます！嬉しすぎて泣きそうです…不定期更新でご迷惑お掛けしますがこれからも頑張りますね！ (2022年10月1日 20時) (
レス) @page49 id: 79e67df0bc (このIDを非表示/違反報告)
なぎさ(プロフ) - 更新ありがとうございます！この小説が好きすぎて5回は読み直しました...これからも応援しております🥳ご無理のない程度に頑張ってください！ (2022年9月30日 20時) (レス) @page48 id: 0fe7f18098 (このIDを非表示/違反報告)
鏡 - 璃々さん» コメントありがとうございます！手探りで進めているようなお話ですが面白いと言って頂けて本当に嬉しいです！続きも待ってくださるなんて本当に嬉しすぎて転げ回っております…本当に励みになりました！不定期更新で申し訳ないですがこれからも更新頑張りますね！ (2022年7月30日 0時) (レス) id: e6b083c4a6 (このIDを非表示/違反報告)
璃々(プロフ) - コメント失礼します！近界から帰ってくるっていう新しいタイプのお話ですごく面白いです！！！夢主の実力がどのくらいかとかほんとに気になって仕方ないです…続き楽しみに待ってます！頑張ってください!!! (2022年7月29日 19時) (レス) @page31 id: e950c5fcca (このIDを非表示/違反報告)
鏡 - ゆん。さん» コメントありがとうございます！世界観にハマるだなんてとてもとても嬉しいお言葉ありがとうございます！私もゆん。様のお言葉に励まされ飛び上がって喜んでおります…！これからもちょこちょこ更新しますのでどうぞよろしくお願い致します！ (2022年7月15日 12時) (レス) id: d84ec32568 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鏡 | 作成日時：2022年6月30日 2時
