金曜日に振り下ろされたナイフ ページ34
どういうことだ。
聞き返そうとした私を遮ったのは、額に柔らかくデコピンを落としたコネシマ君だった。
「チーノと知り合いやったんか」
『あ―…、うん』
曖昧に返したのがいけなかったのか、少し悲しそうな顔をした彼は自分の席へ帰ってく。その後ろ姿を呆然と見つめながら、復唱する。
『"そういうことか"』
どういうことだ。チーノ君は確かに違うと言った。私に取り憑くのは嫉妬や憎悪じゃない、だとしたら、何だろう。
・
「嫉妬」
『え』
移動教室の帰り、友人はニヤニヤと口角を上げながら私の耳元で囁く。彼女は曲がり角で消えてくコネシマ君の背中を一瞬見つめて、
「嫉妬してたよ、コネシマ君」
『…ん?』
「さっきの1年生に」
彼女の口角が上がるばかりで、理解できない。問いかければ意地の悪い笑みを浮かべ、私の脇腹を小突く。
「たまたま見てたんだけど、Aがさっきの1年生の男子と話してたじゃない? それを見たコネシマ君、難しい顔してたミシンを止めて、もっと難しい顔してAのもとに歩いてったよ」
からかうように言う友人に、逆に冷静になる。そんなわけない。人間が、特に女子がこういった現象に陥った時、してはいけない行動がある。
・
自惚れちゃ、いけない。
・
・
・
「エミさんが呼んどったで」
少し懐かしい声だった。振り向けば広がる緑色、
『ゾム君』
「久しぶりやな」
噂のせいで距離を置いていた人だ。ゾム君は何も悪くないのに、余計な気を遣わせてしまった。罪悪感から下向いて返事をすれば、悲しそうな声で名前を呼ばれる。
「Aさんは何も、悪ないで」
救いの手だった。まさに蜘蛛の糸。
「あいつ等から聞いた。まだあの変なやつ続いてるんやでな?」
『うん』
「いつでも頼ってやぁ。Aさんは、俺の、命の恩人やもん」
そんなことないと言えば、遮るようにゾム君が形のいい口を開く。
「そんなことある。やからもう、Aさんを否定せんとって?」
差し出された小指に自分のを絡みつければ、八重歯を見せて笑ってくれた。手を繋いで旧校舎を駆け抜けたあの時から、私は知っていた。ゾム君がどうしようもなく優しいことは。
「Aさん」
離れかけていた小指をさらに絡みつけたゾム君は、優しい声でまた、私の名前を呼ぶ。
・
・
「やから、シッマのこと好きにならんといて」
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@眠猫。(プロフ) - 弓矢さん» 最初はホラーと恋愛の混合が難しく、挫折しそうになりましたがそう言っていただけて本当に最後まで書き続けてよかったなと思います。しばらく更新の予定はないですが、どこかで番外編など書けたら楽しそうだなとは思います。その時はまた、読んでいただけると幸いです。 (2022年1月10日 20時) (レス) id: 91126b09d4 (このIDを非表示/違反報告)
弓矢(プロフ) - みんなかわいくて素敵で好きです。私の少ない語彙だと上手く言えませんが、空気感も好みで尚且つそれが直に伝わる様で読んでてとてもゾクゾクしました。最後の方もゾクゾクしつつも一周回ってワクワクしながら読み進めました。とても面白かったです。有難うございます。 (2022年1月8日 8時) (レス) @page50 id: 8d1caf834f (このIDを非表示/違反報告)
@眠猫。(プロフ) - 李白さん» 初めまして。この度は数ある作品の中から私の作品を読んでいただき、ありがとうございます。完結して2か月ほど経ちましたが、まだこのような言葉を頂けることに感無量です。お時間ありましたら是非、また覗いてやってください。またどこかで会えますように。 (2022年1月2日 20時) (レス) id: 91126b09d4 (このIDを非表示/違反報告)
李白 - 初めまして。作品全て読みましたが解説を見て鳥肌が立ちました。最高です。この作品に出会えて良かったです (2022年1月1日 11時) (レス) id: 1cec622168 (このIDを非表示/違反報告)
@眠猫。(プロフ) - このはさん» 返信遅くなりました。この度は私の作品を読んでいただきありがとうございます。練りに練ったお話だったのでそう言っていただけるととても嬉しいです。またどこかで会えましたら、よろしくお願いします! (2021年11月16日 22時) (レス) id: 91126b09d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:@眠猫。 | 作成日時:2021年8月28日 17時