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こんこんこん、と轟の部屋のドアを叩く
すぐに軋みもなくドアが開いた
畳の匂いと、他の人とは一風変わった部屋が目に飛び込んでくる
轟の部屋に来たのは数回ほどだが、やはり寮で見る和室というものには慣れない
｢お、わりぃなわざわざ｣
｢あ、ううん。大丈夫……だけど、さっきの……なに？｣
｢？なに、ってどういうことだ？｣
何も分かっていないような顔を浮かべて轟は首を傾げた
｢腕掴んだり、三奈達の前でわざわざああいう風に言ったことだよ！｣
｢…あぁ、それか
なんかおかしかったか？恋人なんだから普通だろ｣
何がおかしいのか分からない
心底そう言ったような表情で轟は言う
｢……ねぇ、轟
私たち、皆の前でも恋人らしくするってこと？｣
｢？ちげぇのか？偽でも付き合うってそういうことだと思ってたんだが｣
｢え…私、婚約者の前だけこんなふうにするのかと思ってた｣
ここで2人の思考にズレが生じていたことが発覚した
2人揃って首をかしげるこのザマは、傍から見れば滑稽なものだろう
｢……なんも相談無しにあんなことして悪かった
けど…俺は婚約者の前でだけ恋人らしく振る舞うなんて出来ねぇと思う｣
少し考えてから轟が口を開く
その意見は至極真っ当なもので、私も確かにと頷いた
｢ぜってぇにボロが出ちまう
それなら今からクラスメイトのやつら騙すくらいの勢いでやらねぇと、俺の家族……ましてや婚約者なんて騙せねぇ｣
｢……うん、｣
確かに轟演技あんま上手じゃないもんね？とからかうように笑えばうるせぇよ、と言われてしまった
｢まぁ、冗談はさておいて…
じゃあ、これからはクラスメイトの前でも恋人として振る舞うって事でおっけー？｣
｢Aがいいなら、俺はそうしたい｣
｢うん、大丈夫だよ
てか大丈夫じゃなかったらそもそも引き受けてないしね｣
｢そうか、｣
よかった、と安心したよに轟が息をついた
｢じゃあ、恋人らしく…………って、なんだろうね？｣
｢……さぁ？｣
またもや2人揃って首をかしげる
私は頭を回して元彼のことや少女漫画やドラマのことを思い出す
恋人に共通する点といえば…？
｢……名前と距離感とかじゃない？｣
｢名前と距離感｣
私の言葉をオウム返しして轟は｢なんだそれ｣と呟いた
｢元彼……と言っても2人だし中学時代だからそんなしっかりしたものじゃないんだけど、その人と付き合ってる時……｣
｢は？｣
轟の低い声が私の言葉を遮った
｢え？｣
その目は鋭く私を見つめていた。
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作者名：月亜 | 作成日時：2022年10月30日 20時
