(1)高校1年、夏、始まり ページ1
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「わかった?」
「うーん、わかんね」
8月。
クーラーがガンガンに効いたこの部屋で教科書と向き合う私とワークを睨みつける優太。
私がもう既に終わらせている宿題の山が彼にはまだ沢山残っている。早めに終わらさなければならないものを今、私の目の前に座っているこいつにやる気はさらさらないようで。
「えー…」
「とりあえずアインシュタインがすげえやつなんだろ?それ分かればいいっしょ!」
「いや、よくないと思う…」
「大体Aは固すぎなんだよ!夏ぐらい弾けようぜ?な?」
「…なんで優太は高校受かったの?」
「強運の持ち主だからに決まってんだろ」
「…はい。」
親同士はもちろん、兄同士の仲が大変良くその流れで小さい頃からずーっと一緒だった。
さすがに高校は、と思ったが彼───岸優太は私と同じ高校に行きたかったらしく猛勉強の末なんとか合格を勝ち取り結果同じ高校、同じクラスでまた1年共に過ごすこととなったのだが…優太の頭の悪さは健在でなぜ受かったのだと心から疑問に思うほど成績は宜しくない。
「そもそもこのなんちゃら理論他の学校やってないんだろ?なーんで俺らだけやんだよーー」
「相対性理論、ね。これぐらい覚えて。先生に熱が入ってるからじゃん?」
「なんか俺らみたいだよな、ソータイセー理論」
「そう?てか早く終わらせて」
「…今年行けねえのかなあ」
毎年夏に岸家と私たち齋藤家は一緒にお泊まりで海に行くのが恒例となっていた。
しかし先日優太が優太のお母さん(以下おばさん)から20日までにワーク終わらなかったら今年はなし!と言われ泣く泣く私にヘルプを申し出たというわけだ。
「全責任優太にあるよね。」
「は?お前終わってんの?」
「溜め込まない派なんで」
「まじで行きたかった…Aと旅行したかった…」
「私も行きたいから終わらそ。ね?」
「まじ??」
「まじ。ほらやる!」
「でもあと5日しかねえよ」
「死ぬ気でやれば終わるって」
「…なんかご褒美ちょーだい」
「わかったから、やる!やれ!」
オレンジジュースをぐいっと一気飲みした優太はその勢いでワークにシャーペンを走らせた。
その姿を横目で見ながら「弟にしたい」と切実に思うのだった。
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作者名:Kaede | 作成日時:2019年9月24日 20時