26 影響力 ページ26
「僕はいつも、ありのままだよ？」
不思議そうにまっすぐ見つめてくる瞳に嘘はないけれど…
「違うでしょ。だって悟くん、本当は“僕”じゃない」
「…あぁ、それは
「すぐる…？」
「いや、何でもない。ほら、任務任務！ 伊地知が待ってる」
言葉を濁して目隠しを戻した悟くんは、不自然に話を逸らしてはぐらかし、私の背中を押した。
悟くんにとって、『すぐる』って人の影響力が大きいって事は分かる。
夢に出てきて、寝言で名前呼んじゃうくらいだもんね。
それにしても…
今、『すぐる』さんはどこにいるんだろう…？
ある日の夕刻。
仕事が終わり、伊地知くんと別れて宿舎に戻る途中。
高専の廊下で偶然、任務の報告に来ていた七海くんを見つけた。
腕を掴んで近くの教室に押し込み、
「何事ですか？」
冷静に驚く七海くんに『すぐる』さんの事を聞いてみる。
「すぐる…」
「どんな人で、今どこでどうしてるのかな…って思って」
けれど、七海くんは堅い表情を更に強張らせた。
眼差しにも厳しさが増す。
「
抑揚のない声音の簡潔な答え。
でも、どうして過去形…？
私の無言の疑問が伝わったようで、七海くんは小さく息を吐き、
「今から７年前。彼が高専三年生の時です。一人で訪れた任務先の村の住人112名を自らの呪術で
そこまで一気に言い放った。
文字が流れていくような説明だったけれど、伊地知くんの下で補助監督の知識を多少身につけた私には、言葉や状況がひとつずつ浸透し噛み砕かれる。
するとすぐに、あまりにも辛く悲しい結論に辿り着いた。
それでも、まさか…と否定せずにはいられない。
私の表情を見た七海くんは、悔し気に眉根を寄せた。
「もちろん、処刑には夏油傑と同等以上の力を持った術師でなければなりませんので、執行人は必然的に五条さんです」
私が気安く踏み込んじゃいけない領域。
だから七海くんはあえて、詳しい事情を教えてくれたんだ。
「ごめんなさい…」
「謝られても困ります。私は当事者ではないですし」
「今聞いた事も、傑さんの名前も全部…記憶抹消できないかなぁ…」
「まぁ無理でしょうね…」
苦笑いを浮かべ俯いた私の頭上を、微かに漏れ笑んだ七海くんお馴染みの深いため息が抜けていった。
*
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2021年11月3日 22時
