23 転機 ページ23
「なっ…なにして…なんでッ！？」
「同じベッドで一緒に寝てるんだから、これくらい当然――」
「――そんな訳ないでしょ！ どいて！」
一緒のベッドで抱きしめられて眠っておいて、そんな訳ないとか自分でも意味わかんないけど、これ以上流される訳にはいかない！
そういうのは、ちゃんと自分の意志で…
「だぁーめ。もう少しこのままっ♪」
「あ…」
何故かご機嫌な悟くんに、布団の中に引き戻された。
後ろから抱きしめられて…
腰に回された腕にギュッと力がこもる。
はぁ…
私、悟くんに甘いよね…
別にさ、この絡みつく腕を振り切ったっていいし、そもそも家に泊めなくたって良かったんだよ。
追い返したって良かったんだ。
でも悟くん、捨てられてた
どうしても放っておけなかったんだよね。
嫌なことはされないし、私が本気で『嫌だ』って言ったら、ちゃんと引いてくれるはず。
それが分かるから…
「悟くん、もう準備しないと、伊地知くんが迎えに来るよ」
「えー…今日は一日中こうしていたい」
「我儘言わないで。私も仕事に行かなきゃ」
「……。仕事…辞めちゃえば？」
うん、そう言われると思った。
今日は辞表を出しに行くんだ。
だから、あの会社に出勤するのも、あと１ヶ月。
「いやぁ、残念だなぁ」
「そう仰っていただけて嬉しいです。ですが…」
何この部長、すっごく演技下手。
絶対に残念だなんて１ミリも思ってないくせに。
少し前から小原さんの事で良くない噂を立てられてた。
小原さん、ああ見えて人当たりいいし私以外にはちゃんとしてたから。
同じ部のメンバーも腫れ物に触るみたいに私に接していて、居心地は最悪だった。
「あと１ヶ月。引き継ぎ、よろしく頼むよ」
「はい…」
特に思い入れもない会社だった。
２年前、半年の寝たきり状態から復活して、リハビリも兼ねて勤め始めた仕事。
私がいなくなったところで、代わりはいくらでもいる――…
…――１ヶ月後。
「お疲れサマンサ〜」
「悟くん…」
こんなところまで来なくても大丈夫なのに…
関わった相手に対しては意外と過保護だよね。
「ありがとう」
初めて心の底からの感謝。
悟くんは少し驚いていたけれど、すぐに口元を緩めた。
「私、伊地知くんの下で『補助監督』の勉強するね」
「何で？ 呪術師目指さないの？」
「私に呪術師は無理だよ」
「ふぅん…ま、頑張って」
適当な応援が、今の私には心地いい。
会社を出たその足で伊地知くんの運転する車に乗り込み、悟くんと一緒に高専へ向かった。
*
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2021年11月3日 22時
