59話 ページ9
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末「……ごめん」
私のことを真っ直ぐに見つめる彼の視線が痛くて、ちょっぴり苦しくて。
俯いた頭をかろうじて横に振ることで、意思表示をした。
末「ほんま、ごめんな」
一歩、縮まった距離の分だけ私が後ずさる。
彼の小さく息を呑んだ音が聞こえた気がした。
末「……もう俺のこと好きやなくなった？」
静かな問いかけは衝動的に私の顔を上げさせる。
なにそれ、って虚しくなった。
散々私の想いを無視して、疑ったくせに、って。
怒っているのか悲しんでいるのか、もう私にもわからない。
整理できない気持ちのまま、込み上げたものが涙となって目尻を滲ませ、視界が霞む。
末「……泣かんといてや」
誠也くんのせいだよ。
そう言いたいのに涙が零れないよう必死に噛み締めている唇からは、上手く言葉が出てこない。
前みたいに目元を拭おうとする手を振り払って、でも弱々しく笑った彼は諦めずにまた私に向かって手を伸ばす。
末「俺のせいでいっぱい泣かせて、傷付けて……ごめん」
壊れ物を扱うみたいに柔く私に触れる手のひらは、余計涙を溢れさせる。
もう我慢なんて無理でぼろぼろと流れていくのを止められなかった。
『……っ、や、だ』
末「ん」
『も……、きらい、……』
私の口から出てくるのは、彼への想いを否定するものばかり。
それでも彼はいつもみたいに優しい眼差しで私の言葉を聞いていた。
『誠也くんのこと、きらいになりたいっ、……』
私のうそつき。
そんなの無理だってわかってるくせに、望んでいないくせに。
末「……ごめんな。それでもやっぱ、離してあげられへんねん」
ほら、簡単に誠也くんの腕の中に閉じ込められた。
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作者名：ゆの | 作成日時：2023年1月28日 4時
