有給前夜 (ページ3)

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第二話(寂雷目線) ページ3

…理由もなく我々は息を吸い、息を吐き、生きる。
決して生きる事は簡単ではなく、全てが謎に包まれたこの世。歩き方すらも知らない少年等は容易く膝を地につけた。
…何もかも、腐っている、こんな世界。
上辺では「平等だ」とそう笑いながらも、絶対に平等とは言えない。
認めたくは無いが、普通の日々だと己が溶け込んでしまっている。
心のどこかで非日常を求める声を叫ぶだけ。
…そんなのはもう御免だ、こんな事だったら全てを上書きしてしまおう、同じ思いを掲げた少年等は這いつくばりながらも、マイクを手に持ち、言葉を紡いだ。

……再び、ページを捲る。
変わらぬペースで、珈琲の入ったマグカップに口を付けて。
リビングルームに設置にしてある、ソファに腰掛けながら、何百回も繰り返し、繰り返し読んだ、古びた本をパラパラと何度も読み直していたのだ。
時間すらも忘れ、ただ優雅にその時間を噛み締める様に過ごす。
空調設備が整った空間、キッチリとした仕事着とは違い、肌触りの良い衣服を着衣する。…とても、心地がいい。

寂雷「……おや、もうこんな時間でしたか…。」
ふと掛時計の方へ視線を向ける、時刻は……
寂雷(独歩君が…帰宅する頃ですかね。)
…終電に間に合う様に帰れてるといいのですが…。大丈夫でしょうか。
寂雷(……そういえば…今日の昼、病院に来てくれた一二三君が…「明日有給が取れたと独歩君が喜んでいた」と言っていましたね。)
…また一口、珈琲を身体に流し込む。香ばしい香りが臭覚を支配する、自然と心が安定へと傾く。

……私も、そして一二三君も明日は休みだ。都合さえ良ければ…
寂雷(……釣りにでも誘ってみよう。)
木製テーブルに置いてある電子端末を手に取る、そして液晶画面上に表示されたメッセージアプリに指を重ねた。
「独歩君」…彼のトーク欄にて文字を打つ。
寂雷(……これでいいかな。)
送信ボタンに指を被せる。
…さて、そろそろお風呂に入ろうか…。
先程と同じ位置にスマホをテーブル上に置き、私はリビングの扉を開けた。

(続く…)