有給前夜 (ページ2)

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第一話(独歩目線) ページ2

…現実味を帯びないこの世界、マイクのスイッチに指をかけて、生きて行くしかない。
まるで一本の映画でも観ている様な気分で……今まで平凡に生きて来た俺のモノクロな人生が、鮮やかに色付いていったんだ。そんな風に心が満たされていく中でも、傷は増えるばかりで。
何度も何度も自分を憎んでいた。
…理由？理由は…あまり分からない。だけど……全部俺が悪いんだ、俺のせい、俺のせい…。
周りから囁き声が聞こえてくる、俺を貶す声、見下す声、蔑む声…。
常時、強迫観念に囚われながら、レール上の上を真っ直ぐ、マニュアル通りに進んで行く。
……俺の名前は「観音坂独歩」
御年二十九のしがないサラリーマンだ。
有給前日の今……終電列車に揺られながら、窓の外を眺めている。
人工的に作られたドギツイ発光カラーの光の粒が、闇に包まれた街の景色にチラホラと散りばめられている…。

……あぁ、視界がまだボヤけた。
何徹夜明けだったかすらも忘れる程、身も心も疲労感に侵されていた。大袈裟なくらいにふらつく足取りと、妙な憂鬱さが余計に精神を抉る…。
独歩(まぁ、終電に間に合った事が唯一の救いだな……。)
あのハゲ課長め…俺が有給前日なのを知ってたのか、山の様に積まれた仕事を全部押し付けてきやがって…。

…何時もと変わらないシンジュク、昼とは違う、煌びやかな雰囲気…いや、俺と同じ「社蓄」が働いている証拠、ビルに灯る明かりが幾つも幾つも街を彩る。
あの会社にも、あの会社にも…ハゲ課長みたいな憎たらしいクソ上司が居るのかな…はは、大変だな…。
疲れ過ぎて最早笑いすらこみ上げてきた、あぁ……俺は自由だ…はは、社蓄の皆様…聞いてくれ…俺は明日やっと有給が取れたんだ…自由なんだ……はは、良いだろ…俺は自由だぞ…あはは…。
独歩(って何考えてんだ俺……)
ふと我に返る。
…とてつもなくくだらない、頭のおかしな事を考えた自分に、思わず突っ込んでしまった。
…そんな思考を遮るかのように鳴った、メッセージの通知音がやけに煩く聞こえた。
独歩(誰だ…？)

(続く…)