初恋の終幕 05 ページ21
「昔一回だけここでみんなで遊んだよな」
「……ぅん」
慎太郎が次に何を話すか直ぐに思い立って、恥ずかしさに自然と返事をする声が小さくなる。
「A、方向音痴なのに竹藪の奥の方まで一人で行って迷子になって、親とか学校の先生とか来てさ。あの時マジで心配したからな？」
そう、そんな事があったのだ。当時から単独行動をしがちだった私はついつい足が人気のない方へ向かってしまって、気付いた時には四方の景色が同じになって帰り道が解らなくなってしまった事があった。
「その節は本当にご迷惑をおかけしました」
あの時の話を持ち出されるとしおしおとそう答える事しかできない。
今とは違い冬が近付いていた時期で直ぐに辺りが暗くなったのを覚えている。当時まだ幼かった私は、風が吹くたびにそこに居ないものがいるような気がして、寒いのと怖いのとでその場から動けなくなっていた。途方にくれていた私を、真っ先に見つけてくれたのは大人達に混じって探してくれた慎太郎だった。
「良かったよ、本当、見つかって。でもその後Aおばけが怖いって言い出だしてここら辺一緒通る時はいっつも手繋いでたよな」
慎太郎の言葉に、嘘はない。当時の私にとってはかなりの恐怖体験で、私が完全にこの神社には怖いおばけがいると思い込んでいたのだ。今となっては思い出すのも恥ずかしいエピソードだった。
「今はもう怖くないよ」
せめてもの抵抗でそう言う。
「どーだか。お前今でも怖がりじゃん」
そんな私を慎太郎が笑った。小馬鹿にしているようで、慎太郎の優しさが滲みでているような笑い方で。私は昔から慎太郎のこういう所が好きだった。
「流石におばけは勘違いだったって思ってるよ」
だから、この手は離しても大丈夫なのに。今はもう、近くを歩くくらいは一人でだって出来る。境内まで一人でというのだって、好んでやろうとは思わないけどやって出来ない事はないだろう。だけど慎太郎はあの頃のように私の手を握って少し先を歩く。
その手の温もりに胸がぎゅっと痛んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1402人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夕色(プロフ) - つばささん» つばささん！ありがとうございますっ。なんとか完結出来ました。でも今だいぶ空気が抜けた風船みたいな状態なので、すぐに次の話を書ける方すごいなーという気持ちでいっぱいです(^_^;)。 (2022年1月24日 19時) (
レス) id: 109b0e65b2 (このIDを非表示/違反報告)
つばさ - ID違うけどつばさです！完結おめでとうございます！キュンとしたり切なかったり…本当に素敵なお話でした(^^)終わりは寂しいですがお疲れ様でした✨ (2022年1月24日 16時) (レス) id: d22c4c2f70 (このIDを非表示/違反報告)
夕色(プロフ) - ★mmiioo★さん» コメントありがとうございます！月曜固定更新にしたのは、自分的に楽だったからですが読んでくれてる方にも楽しみにして頂いたみたいで嬉しいです。二人とも良い子なのできっと良い人に巡り会えるはず！自己満足な裏設定もお読み頂きありがとうございました😊。 (2022年1月24日 14時) (レス) id: 109b0e65b2 (このIDを非表示/違反報告)
★mmiioo★(プロフ) - はじめてコメントします。このお話を見つけてから、毎週月曜日が楽しみでした。ようやく二人が結ばれてほっとしましたか、失恋した2人も近い未来、大切な誰かと出会えますように。皆優しくて、読んでいて心地いいお話でした。裏設定、面白かったです(*´∀`)♪ (2022年1月24日 10時) (レス) id: 9bdd0af86e (このIDを非表示/違反報告)
夕色(プロフ) - ubisiさん» コメありがとうございます！なんとか無事に走り切ることが出来ました。青春ど真ん中の話が書きたかったのでそれを感じて貰えたみたいで良かったです。 (2022年1月24日 10時) (レス) id: 109b0e65b2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夕色 | 作成日時：2021年11月22日 8時
