検索窓
今日:1 hit、昨日:49 hit、合計:23,257 hit

大罪人の吐露 ページ44

「…ユーリ」

 夜も更けた頃。オレは、眠り続けるユーリの傍で彼女にした仕打ちをずっと考えていた

 11年前は、証拠があった。それが偽造されたものでもあの時は真実だった。しかし、今回は違う。何の証拠もなく、怒りのままにユーリを糾弾した

"『死者の都』での…いえ、その後の宴の時に約束したでしょう?私が裏切ったら殺せ、と。今がその時なのではなくて?,,

 自分を殺すように提言したユーリの瞳には、怒りも憎しみもなかった。ただ、果てしない絶望と諦めだけが宿っていた

 今思い返すだけで背筋が凍りつくような恐怖を覚える。生まれてこの方幾度となく戦場に立ち、星の数ほど命を葬った。それ故か、恐怖を覚えることはあまりない。あるとすれば、エリザベスの記憶の回帰と死。もしくは、"以前の自分,,に戻りつつあることを自覚した時くらいだ。だが、ユーリが死ぬかもしれないと自覚した瞬間、表しようのない恐怖を覚えた。ユーリが居なくなってしまうことが、怖かった

「…いつの間に、こんなに大きな存在になってたんだろうな」

 月明かりがユーリの美しい顔を照らし、彼女の長い睫毛が影を作る

 〈霊魂の女神(ラ・ヴィータ)〉を象徴するものは太陽。万物に降り注ぐ、生命の源。聡明で美しく、寛大で慈愛に満ちた女神様

 誰もが一度は耳にする命を司る女神の噂。妖精・巨人・人間の間で紡がれた女神は、いくつもの理想で作り上げられた虚像でしかなかった。少なくとも、オレたちがユーリと呼ぶ女神はそんなご大層な存在ではなかった。痛みも苦しみも感じ、血も涙も流す、オレたちと同じ奴。美化され、賞賛され、過度な期待を一身に受けたユーリが諦めてしまったのも無理はない。そして、その一因にオレとエリザベスが関わっていることも、何となく分かっている

「…これからは、お前のことも幸せにする。お前がオレの幸せを願ってくれるように、オレもお前に幸せになってほしいんだ」

 もう、エリザベスだけを見つめていた以前のオレには戻れない。オレの幸せを願い、その為に身を犠牲にする奴を知ってしまったから。何より、オレ自身がエルティアナという一人の少女を家族として愛していることに気付いてしまった。だから、もうエリザベスと共に幸せになる、という願いだけでは生きていけない

「…絶対に、お前を独りにはさせねえから」

 ユーリの細くて白い手をそっと握ったオレは、彼女のゾッとするほど美しい(かんばせ)を見つめて決意を新たにした

次期魔神王候補の問い→←根が優しいから怖がる



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.2/10 (13 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
38人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

pomme(りんご)(プロフ) - 瑠李さん» 返信ありがとうございます。また何かありましたらお教え頂けますと幸いです (2021年7月4日 20時) (レス) id: cf9e4ba859 (このIDを非表示/違反報告)
瑠李(プロフ) - ありがとうございます!今読みました。これからも面白い小説頑張ってください!応援してます! (2021年7月4日 19時) (レス) id: 88c711d3e6 (このIDを非表示/違反報告)
pomme(りんご)(プロフ) - 瑠李さん» コメントありがとうございます。今、消しましたのでご覧頂けると幸いです (2021年7月4日 19時) (レス) id: cf9e4ba859 (このIDを非表示/違反報告)
瑠李(プロフ) - 国王陛下の帰還が同じセリフがあります (2021年7月4日 19時) (レス) id: 88c711d3e6 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:アストライアー | 作成日時:2021年7月3日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。