兄の悔いと弟の願い ページ35
「シリル、メリオダス様を連れて来たわよ」
客人用の部屋なのだろうか。美しく整えられた部屋は、先程まで戦いがあった場所とは思えないほど穏やかな時が流れていた
「兄上…来てくれたんですね……」
「…ああ」
寝台で微笑う弟は、酷く衰弱している。恐らく、命を繋いでいた想いが消えた為、死へ歩いて行っているのだろう
「私たちは隣の部屋にいますから何かあったらそこの魔水晶で呼んで下さい」
「失礼します」
柔らかな笑みを浮かべて会釈したユーリは、栗色の髪と紅色の瞳を持つ中性的な顔立ちの少年を連れて部屋から出て行った
「とりあえず…座って下さい。立っているのも疲れるでしょう?」
弟に勧められ、大人しく椅子に座ったオレを見てシリルは軽く噴き出す
「なんだよ?」
「変わられましたね、兄上。昔の兄上なら、冷たくあしらったでしょうに」
「やめろ。黒歴史なんだぞ」
「僕は昔の兄上も大好きですよ。兄上が魔界から出て行ってからもずっと……」
自分によく似た弟。けれど、中身は全く違っている。シリルも、ゼルドリスも、優しい奴だ
「エリザベス姫の手を取り、魔界を出て行ったことを後悔していますか?」
「…エリザベスは関係ねえ」
「別に責めている訳じゃないですよ。でも、エリザベス姫の為に魔界を出て行ったことに変わりないでしょう?」
「…お前は、エリザベスを憎んでるか?」
「…半分半分、ですかね。兄上に関して言えば、エリザベス姫には感謝しています。でも…義姉上の心を思うとあまり手放しに姫を好きとは言えません」
「義姉上?」
「エルティアナ=リリアーヌ女王。兄上がユーリと呼ぶあの御方を"義姉上,,と呼ばせて頂いています。僕を本当の弟のように可愛がって下さる方なんですよ」
シリルとユーリがそんな関係だったなんて知らなかった。改めて、自分がユーリについて何も知らないことを突きつけられたような気がした。何も知らない癖に甘えてばかりいると、否が応でも自覚させられた
「…兄上」
少し眠たそうなシリルに呼ばれ、顔を上げると弟は真剣な表情で出来損ないの兄を見ていた
「お願いがあるんです」
「なんだ?」
「義姉上を…独りにしないで。あの、哀しいほど優しくて繊細な方を悲嘆に暮れたまま死なせないで下さい」
弟の意外な願いを目を丸くするとシリルはオレの腕を弱々しい力で握り、じわじわと瞳に涙を溜めた
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pomme(りんご)(プロフ) - 瑠李さん» 返信ありがとうございます。また何かありましたらお教え頂けますと幸いです (2021年7月4日 20時) (レス) id: cf9e4ba859 (このIDを非表示/違反報告)
瑠李(プロフ) - ありがとうございます!今読みました。これからも面白い小説頑張ってください!応援してます! (2021年7月4日 19時) (レス) id: 88c711d3e6 (このIDを非表示/違反報告)
pomme(りんご)(プロフ) - 瑠李さん» コメントありがとうございます。今、消しましたのでご覧頂けると幸いです (2021年7月4日 19時) (レス) id: cf9e4ba859 (このIDを非表示/違反報告)
瑠李(プロフ) - 国王陛下の帰還が同じセリフがあります (2021年7月4日 19時) (レス) id: 88c711d3e6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アストライアー | 作成日時:2021年7月3日 22時