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ぎこちない心地よさ ページ1

お風呂から上がると食欲をそそる良い匂いが鼻を掠める。

「丁度良かった。今食事の用意が出来たところなんだ。一緒に食べよう」
「あ、ありがとうございます」

食事まで…
タルタリヤさんは困っている人をほっとけないのか、面倒見が良い人なのだろうか。

背中に手を添えられて椅子まで引いてくれるので遠慮がちに席に座る。

…怖い。
「えっと、その。すみません。私あまり食欲が…」
「少しだけでも食べないと帰りの体力が持たないよ。それとも璃月の料理は口に合わない?」
「いえ!そんなことは…」

慌てて否定するも、なかなか箸に手が伸びない。
「君は箸を使ったことある?慣れないならカトラリーを用意するよ。なにせ俺もまだ練習中なんだ」

不自然な箸の使い方で自分の皿ではなく、私のお皿から料理を掴むと一口で口に入れる。
「うん、ちゃんと美味しい!」
「っ、」

タルタリヤさんは分かっている。
私が警戒していることに。
目の前の料理に何か仕込まれているのではないかと恐れていることに。

よく見れば璃月独特の辛い料理は一つも無く、味の違和感に気付きやすい薄味で優しい匂いのするモノばかりが並んでいる。

「タルタリヤさん、その…」
「早く食べないとせっかくの料理が冷めちゃうよ」
「…はい。いただきます」

箸に手を伸ばし、目の前の料理をゆっくりと咀嚼する。
「…美味しい」
「それは良かった」

私が彼に何も聞かないように、彼も私に何も聞かない。
それが心地よかった。

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作者名:カリン | 作成日時:2023年1月31日 10時

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