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意識の戻った松倉さんは、それから数日後病棟に移った。こうなると、もう俺には2人を見守ることができない。
頭の隅っこではずっと気にしながらも、また必死に食らいつく毎日が戻ってきていつの間にか2人のことを考える時間は減っていった。
元「すみません。勉強、しておきます…。」
「頼むよ、もうすぐ1年目も終わりなんだからね!」
年が明けて3月になっても、怒られてばっかりの毎日は変わらない。俺は、今日もため息をつきながら朝のナースステーションを後にした。
売店で買い物をした流れで、普段は通らない正面の出入り口に行く。退院する人なのか、松葉杖をついた人が花束を受け取っていた。
おめでとうございます、なんて心の中で言いながら、横を通り抜けようとした時だった。
「…あ、あのっ!」
急に腕をつかまれて、後ろによろける。慌てて振り返ると、そこにいたのは前に会ったときよりずっと生き生きした顔をしてる宮近さんだった。
元「宮近さん…!」
宮「ご無沙汰してます。……クラ、この人すげえお世話になった看護師さんだよ。ほら、いつも話してる。」
松葉杖のその人は、俺を見て目を見開いた。キラキラした目。当たり前だけど、起きているところを見るのは初めてだ。
倉「は、初めまして。……いや、初めましてじゃないんですよね。」
ICUにいる間の記憶があやふやな人は多いから、初めましてでほとんど間違いない。それなのに、心から申し訳なさそうにしてる松倉さんはなんだかかわいらしかった。
倉「あの、ありがとうございました。ちゃかを、俺の大事な家族を、1人にしないでくれて。」
見てるこっちがうろたえるくらい真っすぐな目で言った後、ふわっと松倉さんが笑う。目の前で、ずっと見たかった花が咲いた瞬間だった。
満面の笑顔の2人に見送られながら、なぜかこみあげてきた涙がこぼれないように顔を上げて病院の外に出る。
久しぶりに実家に帰りたくなった。パパと、にーにの話をたくさんしたい。
命をつなぐ旅は、まだ始まったばっかりだ。でも、やっとスタートラインに立てた気がする。
ふんわり優しい風が、髪を揺らす。2度目の春風に背中を押されて、俺はまた新しい一歩を踏み出した。
「次の春へ」fin.
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おさと(プロフ) - ユルピさん» ユルピ様、コメントありがとうございます!素敵なリクエストをいただき、ありがとうございました!よろしければ、最後までお付き合いいただけますと幸いです! (2022年11月27日 19時) (レス) id: 9a83433ded (このIDを非表示/違反報告)
おさと(プロフ) - るるちゃさん» るるちゃ様、ご無沙汰しております!もちろん覚えております!!素敵なリクエストを、本当にありがとうございました。読み返していただいていたとのこと、本当に嬉しいです。最後までお楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともお付き合いいただければ幸いです! (2022年11月27日 19時) (レス) id: 9a83433ded (このIDを非表示/違反報告)
ユルピ - 如恵留くんのリハビリのお話見ました!とても感動的で心が暖かくなりました!この小説が最後になるのは寂しいですが、残りも頑張ってください! (2022年11月26日 20時) (レス) @page27 id: 05904f8bd6 (このIDを非表示/違反報告)
るるちゃ(プロフ) - 楽しみになっていました。暇な時に何回も何回も読み直し〜なども良くやっていました(笑)今後もそれを続けていきたいと思います。残りの作品を目一杯楽しみます。本当に本当にこの作品が今までにないくらい大好きです。おさとさんありがとうございました!! (2022年11月26日 20時) (レス) id: 08c89fe430 (このIDを非表示/違反報告)
るるちゃ(プロフ) - 久しぶりに見させて頂きました。覚えているかは分かりませんが何回かリクエストさせて頂いた元「kai」「海輝」という者です。久しぶりに占いツクールを見てこの作品に辿り着いたのですが終わってしまうと思うと凄く寂しいです。沢山リクエストさせて頂いて毎日の (2022年11月26日 20時) (レス) id: 08c89fe430 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2022年11月12日 16時