話したい17【桃】

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さ『卒業したら結婚する？』

「えっ…。」


さとみくんの後ろから聞こえる雑音がなくなり、真っ直ぐに届いてくるその言葉。
きっと、彼にかけて欲しかった言葉のひとつ。
けれど、実際その言葉をかけられた時に、自分の不甲斐なさに追い討ちをかけられた気になった。
社会でやっていけない、誰かに守られ続ける人生しか歩めないのだと。


さ『って、あんまり外で危険な目にあっても欲しくないし、悲しい思いもして欲しくないからそういう本音はあるけど、そうじゃないんでしょ？』


それすらお見通しというわけか。
返事をしたら声が震えそうで黙っていた。


さ『Aちゃんの周りは夢見て夢を追ってる人が多いからなぁ…俺とかころんもそうだし…。そうじゃない人と関わるとしたら…俺らの周りだとなーくんくらいかな？』

「なーくん…。」

さ『なーくん、俺たちと同じ仕事してるけど、会社の社長だからね。俺らの中じゃダントツで社会に触れてる人だと思うよ。中には夢を追わずに会社に就いた人とかとも関わってるだろうし、一回聞いてみたら？』


そもそも話を聞ける人が限られている自分。
現状を知っている人の中では、なーくんは聞きやすいかもしれない。


さ『後はそういう人との関わりだけで言ったらころんかなぁ…。あいつ人脈広いし。』

「ころちゃんは…。」


先程ころちゃんに八つ当たりしてしまったことを思い出すと、なんだかいつもみたいに頼りづらかった。
思わずこぼした名前に、さとみくんの笑い声が聞こえてきた。


さ『なに。珍しい。喧嘩した？』

「…喧嘩じゃないもん。」


一方的にAが気まずくなっているだけ。
そして、ころちゃん相手だと、甘えてしまう。
ころちゃんには、一切格好付けもしないし、誤魔化しも効かないから、ただひたすらに甘えてわがままを言ってしまう。
だから、思わずポロッと出てしまった。


さ『ははっ。まぁなんでもいいけど。なーくんに連絡してみたら？』

「…うん。」

さ『ころんも話したら分かってくれるよ。』


またね、と通話が切れる。

ころちゃんに謝らなきゃ。
そう思って今度はころちゃんの番号を開いてみるが、できずに閉じた。
躊躇した。
それは、後ろめたさなのか、劣等感なのかわからなかった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー
会えること、元気なことがわかるってとっても幸せなことなのだと、改めて実感する日々。
当たり前じゃないことを、当たり前に感じさせてくれたことこそが、有難いことだったんだなぁ。

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