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気が付けばすっかり日も落ちて、夏祭り会場の河原にこもる熱気の色が変わる。


そわそわし始めた空気に首をひねったとき、黒く染まった空にいきなりカラフルな火花が散った。




花火だ。


周りの歓声を聞いて、やっとそれを理解する。打ち上げ花火の大きな音は、海斗の体に悪くないだろうか。俺は、とっさに海斗の方に顔を向けた。



閑「なあ、かい、」


ハッとして、言いかけた言葉を飲み込む。





きれいだ、と思った。



花火より君がきれいだ、なんて台詞は、鼻で笑いたいし鳥肌は立つし、死ぬほどクサいものだと思ってる。でも、俺はまさにそれと同じ感情を持ってしまった。



初めての光を見上げる人間の目は、こんなにも美しい。周りの音も、海斗が興奮の表情で上げた大声でさえ、一瞬俺の耳には届かなくなった。ここに来てよかったんだ、と確かな喜びが頭のてっぺんからつま先までを熱くする。




2発目の花火が、上がる。赤と黄色の光。き、れっ、と絞り出すような海斗の声。花火を見上げる俺の小指が、温もりに包まれる。


海斗、と名前を呼びながら、俺が海斗の手を握り返そうとした時だった。




宮「っ!!うっ……っうぁぁ!」


聞いたこともないほど大きなうめき声が、海斗の白い喉を引き裂くように響いた。3発目の音が、一気に遠ざかる。



閑「海斗!?…っ海斗!しっかりしろ、海斗!」

宮「っか、は、…っうぅ!」


苦しそうなうめき声をあげて全身を震わせる海斗の体は、大きく反りかえっていて今にも車いすから落ちそうになっている。一目で、大発作だと分かった。



閑「…っすみません!救急車を、お願いします!!」


当然5分で治まるはずもなく、俺は近くの係の人に救急車を呼ぶよう頼んだ。



さっきまで熱かった全身が、川に飛び込んだみたいに絶望的な冷たさに襲われる。世界は、一瞬でひっくり返った。

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- ↓もしよろしければ書いていただけると嬉しいです。ご検討のほど宜しくお願い致します。 (2022年10月30日 21時) (レス) id: 7d488f5410 (このIDを非表示/違反報告)
- 赤が酷いトゥレットに苦しむお話。白目を剥いたり、身体が勝手に暴れたり、大きな声が出たり、意味のわからない声を出し続けたり、首振りが止まらず吐いたり。症状でストレスが溜まり、ストレスで症状が悪化する負のループ。友達も出来ず双子の黄だけが唯一の味方。 (2022年10月30日 21時) (レス) id: 7d488f5410 (このIDを非表示/違反報告)
こまち - そして貯めたお金で誕生日プレゼントを買おうとしていた。しかし何も知らない桃はその日も緑を叱る。そして翌日。プレゼントを買った緑はバイトを終え急いで帰ろうとし交通事故に遭う。病院に駆けつけた桃は冷たくなった緑と対面。全ての事実を知った桃は泣き崩れた。 (2022年10月26日 18時) (レス) id: e020254286 (このIDを非表示/違反報告)
こまち - 桃×緑(兄弟)のお話をお願いします。早くに親を亡くし2人で暮らす。弟の緑は最近夜遅くまで帰ってこず桃との関係はピリピリ。でも実は家計が苦しくても自分を養ってくれる桃のため学生の緑は複数のバイトを掛け持ち夜遅くまで働いていた。→ (2022年10月26日 18時) (レス) id: e020254286 (このIDを非表示/違反報告)
ぺえ(プロフ) - こんばんは!リクエスト失礼します🙇🏻‍♀️「やさしいひと」がすごく好きなので、同じ設定でまたお話書いていただきたいです!よろしくお願いします、おさと様のペースでこれからも更新頑張ってください、楽しみにしてます! (2022年10月26日 0時) (レス) id: 8c7e5fe0be (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:おさと | 作成日時:2022年10月16日 19時

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