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『あいつのことは嫌いだから、名前を呼びたくない』なんて言う人を見かけることは度々ある。ああいうのを、織慧さんの言う″個性に触れたくない″という感情と同じだと言うのなら、……俺のあの子への感情も、同じなのかもしれない。
「いいのよ、桐山くん。人を嫌いになるのは自然な事よ。私は貴方を責めたい訳じゃないの。話を続けても大丈夫かしら？」
僅かに優しさの感じ取れる声色。俺は織慧さんに一つ頷いた。「うん」と返事もしたけれど、後ろのみんなの声に掻き消えて、きっと彼女には届かなかった。
「もしも此処から出られなかったら、皆はきっと、この夢の中に留まる事を選択するでしょうね。帰りたいと言っている子達も、泣いて叫んで、怒鳴って喚いて……そして結局どうでも良くなって、全て放棄して。そしてそのうち、諦めと共に此処での平穏を望むようになる」
織慧さんの綺麗な人差し指が、つうっと空間をなぞる動きをした。
「あの子もひょっとしたら、そんな筋書きを描いているのかもしれない。でもね、私、そんなのは御免よ。もしも此処から帰れなければ……その時は私、死を選ぶわ」
極めて冷静な態度で、織慧さんはその台詞を言ってのけた。ぎょっと彼女を振り返る俺に、彼女は真っ直ぐな視線を返す。
「永遠に子供じみた茶番劇に付き合ってあげられる程、私って善人じゃないのよ。私の枷になろうとする人はね、それが誰であっても許せないの。だから私、絶対にカスミちゃんの思い通りになんてなってあげないわ。あの子の為に夢を彷徨うゾンビになんて、誰がなるものですか」
織慧さんは芯の強い人だ。そう思った。そしてそれと同時に、俺の胸の内に潜んでいた蟠りを彼女に引き摺り出されるような、そんな錯覚を覚えた。
あの子の思い通りになんてさせない──織慧さんのその思いは、″
どんな結末が待っていようと、俺も彼女も、永遠に夢に留まるという選択肢を拒絶する。たとえ、出る方法がなくとも。命を捨ててまで、あの子の邪魔をしようと決意している。
同じだからこそ、織慧さんの決意の言葉は俺にとって、とても甘美なものに感じられた。俺はみんなを護りたい。その為なら、
″もう一つの選択肢″を選ぶのは俺だけじゃないって、分かってしまったから。
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