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「ふ〜ん。まあいいやぁ。俺、別のとこ行くねぇ」
そう言って、古染さんが立ち上がる。
「う、うん……」
「それじゃあ、わたしも失礼するわね。小説が書けてきたら、またわたしがレビューしてあげる」
「いや、別に──って、もういないし」
勝手に言いたいことだけ言って、カスミちゃんはふわっと姿を消してしまった。その間に、古染さんはとっくに部屋を出て行っている。
なんなんだよ、どいつもこいつも……。不満を抱きつつ、自分の手に持たれた原稿を見つめる。
「書くか……」
何をどうやったらいいのかわからないけど、一旦文字に触れて落ち着きたい。大丈夫、だって出られないと言うくらいなのだから、時間はたっぷりあるだろう。
俺はそう結論づけ、部屋の中のアンティーク調な机の前に腰掛ける。椅子を引くと、わずかに引きずる音がした。その重量感のある音に、ここは本当に現実ではないのかと疑いが芽生える。
明晰夢とかで片付いて欲しい気持ちはあるが、いかんせんカスミちゃんしか自由に行動できていない辺り、全てを信じて受け入れるしかない。
今は一度、落ち着くだけだ。俺は絶対、出られるという根拠もないかもしれないけど、
「絶対、元いた世界に帰ってやる……!」
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