・ ページ19
*
「えっ、どうしよう……」
どんどんと人が離れていって、不安そうにチヅルちゃんが呟いた。
「えーっと、とりあえず、仕方ないからおれたちはおれたちで、四人で探索しよっか……」
みらくんが同意を求めるようにわたしたちを見回す。すると、かえでちゃんは彼と目が合った途端、視線を伏せてしまったの。そして、ぎゅっとうさぎのぬいぐるみを抱きしめて、控えめな声色で言った。
「……っ、い、いい。かえでは、大丈夫。ゆんなちゃん、行こう……?」
きゅっとわたしの左手首をつかまえて、かえでちゃんはわたしの顔を見つめた。
「えーーーっ!?なんでなんで!?バラバラになったら危険じゃん!!」
みらくんは驚いたように大声で言った。かえでちゃんはその声にビクッと肩を揺らしてから、またわたしに、今度は縋るように視線を向けた。
「お願い、ゆんなちゃん。ここにはいたくないの……」
どうしたの、かえでちゃん。
そう聞きたかったけど、今はかえでちゃんのことがとにかく心配だ。
「うっ、うん。いいよ、行こっか!」
「えーーっ!?ちょ、なんで!?おれちゃん、なんかしたあーーーっ!?」
みらくんの叫びも虚しく、わたしたちは来た方向へと駆け出した。逆戻りになっちゃうけど、そんなこと考えてる余裕なんてなかった。わたし、かえでちゃんの目に弱いなあ……。
*
やがてエントラ ン ス ホ ールに戻ってくると、わたし達はキョロキョロと辺りを見回した。
そして迷った末に階段を降りて、壁際の扉の一つに手を掛けたの。
開くと、そこは外だった。正しくは、どこかの道路の風景、かな。車は一台も通ってない。″ほこうしゃ″側の道にはレンガ造りの花壇があって、色とりどりの紫陽花が花びらに乗った雨 露を光らせてる。
「わあ、きれい……!ゆんなちゃん、近くに行って見てみましょう……!」
「わっ、う、うん!」
かえでちゃんに手を引かれて、わたし達は扉の先へと踊り出た。
背後でギイッと軋む音がして、扉が閉まったのがわかった。振り返ると、道の真ん中に木の扉がぽつんと立っていて、なんだかおかしかった。
「ゆんなちゃん、見て!紫陽花、とっても綺麗……!」
かえでちゃんはまた、とても嬉しそうに笑ってる。さっきはどうしたの?なんて、今の彼女を見たらとても聞く気にはなれなかった。
「かえでちゃん、お花好き?」
「大好きよ!」
「ほんとに!?わたしもね、お花が好きなの!」
「ゆんなちゃんも?えへへ、おんなじね」
わたし達は思わぬ共通点に声を弾ませて、くすくす笑い合った。
12人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ