離別 ページ7
「じゃ、私もう行くから」
つっけんどんにそう言い放ち、ピシャリと玄関の戸を閉めた。
やっとこの窮屈な家から解放されるというのに、私の胸中にはモヤモヤとした鬱憤が立ち込めている。あーあ、最後に何か仕返しでもしてやればよかったかな。まあ、もう関わることもそう無いだろうしいいか。
織慧にはせめて、何か言っておいた方が良かったかもしれない。一瞬そう思ったけど、あの子は私に興味なんてないのだから、「そう」と一言頷いて終わるだろう。どうせ母さん達が知ってるんだから、そこから伝わるよね。
ガラガラとキャリーケースを引きずりながら、田舎の道路を歩いて行く。生暖かい風がそよそよと吹いていて、肌を撫ぜていくのが絶妙に気持ち悪い。
思わず身を震わせたとき、聞き覚えのある声が聞こえた。
「あ……」
「ん……？あっ、あんた……いや、君は織慧の……」
それは私を見てつい声が出てしまった、という感じだった。不意に視界に捉えた姿に、私も咄嗟に口を開いてしまった。
「えーと」
「ワタヌキです。四月一日って書いて、
「あー、そう。そうだ。四月一日……わたぬき、みらちゃん」
女子小学生らしい──今の春休みが明ければ新中学生になるが──センスの水玉模様にポップなフォントのロゴが書かれたシャツを着て、ポケットの縁に小さな白いレースが縫い付けられたベージュ色の短パンに、ピンクの可愛らしいリボンがついたスニーカー。靴下は学校でよく見る足首までの半端な長さの白いやつだ。前髪にはこれまた女の子らしい赤いハート型のピンがつけられている。
「織慧とはまだ仲良くしてくれてる？」
「あ、は、はい……！もちろん！アタシ、織慧ちゃんのこと、まだあんまりわかってないけど……」
みらちゃんは少し俯きながらどこか困ったように笑った。
「あー、あの子は何考えてるか読み取りにくいしね。本当、いつもありがと」
「いえ、そんなに何度も会っているわけではないんですよ。今年から……また、学校が同じになるから、関わりももしかしたら増えるかも、しれないけど……」
そうか、みらちゃんと織慧は二歳年が違うんだものね。近所の子なのに、私はそんなに話したことないからあんまり彼女については知らない。家族同士での付き合いなんて、ウチに限ってもちろんあるわけないし。
「そっかそっか」
「あの、ところでどこか行かれるんですか？」
みらちゃんが問うた。その視線の先には私のキャリーケース。
「うん、実家を出たとこ。都会で一人暮らしするんだ」
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