【d！】彼女はまるで屠所の羊 (ページ5)

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羊が５匹ページ5

あれから一週間が経った。

噂のおかげで浮きまくりの私は本ばかり読んでいた。

「ねぇ、聞いた？麻野さんついに美麗さんに手を出したって」

「聞いた聞いた！確かに美麗さんはあまり好きじゃないけど、流石に手を出すのはねぇ」

「それも左腕と左足みたいよ」

「あー、美麗さん可哀そう」

……まるで立場が逆になったみたいだわ。

私は噂が流れてから坂崎さんをいじめるのをやめた。

怖くなったの。

噂が本当だと思われている中、このまま坂崎さんをいじめ続ければ、もしかしたら予告よりも早く殺されてしまうかもしれないって、そう、思ってしまったから。

けれど、私は卒業式の日に殺される。

良かったじゃないか。高校生活最後の日に幕を閉じれるなんて。

そんなふうに考えても、私に刺さる鋭い目は怖い。

教室にいることが少々苦しくなってきた。気分転換に屋上でも行ってみることにした。

屋上に着き、ドアノブの手を置いたとき微かに話し声が聞こえた。

「鬱君……あのね……。

　私また、Aさんに、なぐ、られて……」

「え……？」

私はその声に耳を疑った。

だってその声は“坂崎美麗”だったから。

「そーか。それは痛かったよな。大丈夫、俺らが何とかしたる」

……な、何がどうなっているの！？

私はここ一週間、いや、噂が流れて三週間、坂崎さんをいじめるどころか会ってすらいないのよ！？

それなのに私に“殴られた”ですって！？

訳が分からない。

私は、何もしてない……！

その時だった。

「なぁ」

声を、かれられた。

それもドアの向こうから。

「話、聞いとったやろ？」

何とも言えない恐怖。

やつには私がここにいることがバレていたんだ。

その恐怖に耐えきれず、私はその場を逃げ出してしまった。

後になって思ったが、あの時、本当に逃げ出してよかったのだろうか。

逃げれば、私が坂崎さんを殴ったと認めたようなもんだ。

生を諦めようとしているのに恐怖に逃げた私は、まだ諦めきれてないのかもしれない。