その唇を奪いたい【green】

twenty-∞ ページ28

『えっと、この辺だったような気がすんねんけど…』








東京は大きかった






すんごい頑張って、頑張りまくった結果章ちゃんと同じ会社に入社することが出来た


東京での家も決めて


で、今日は初出勤の日




だったはずなんやけど…









『…やばい迷子なってまった』







嫌な汗がたらぁと流れる


初めての出勤で遅刻はありえへんもん









｢あの、どうかされました？｣


『え？』


｢さっきからそこウロウロしてはるんで…｣


『あ、ちょっと道に迷ってしまって』


｢どこへ行かれるんですか？｣


『えっと、この会社に…』









同じところを何度も行き来してしまってたみたい


ふわふわ栗色髪のやさしそうなお兄さんが話しかけてくれた








｢あ！そこ七瀬と同じ会社やな！｣


『七瀬…？』


｢あ、こっちの話です、すみません｣








優しくふわりと笑うと汗をひとふきして








｢僕が道案内しますよ！ちょうど僕もそっちに行く予定あるんです｣


『ほんまですか！？』


｢ええですよ！関西から上京した人ですか？｣


『はい、兵庫から』


｢僕京都からです！丸山言います。あなたは？｣







優しい丸山さんのおかげで遅刻せずにすんだ


上司の二宮さんも、怖いけどいい人やし


なんだか東京での生活も上手く行きそうな気がして








その日の夜、ウキウキで家の近くのBARに立ち寄った


BAR【eight】


じんわり目に馴染むような店のあかるさと


中から聞こえるちょっと小さな歌声に惹かれてフラフラと店に入った







｢…｣



『あー、えっと、美味しいお酒ありますか』


｢…あるけど｣


『えっと…』









カウンターに座ってみるものの


あまりBARなんか来たことない私


じっと私をみる力強いふたつの目と








…怖い








何も頼まずに帰るのも悪いし


お酒さっさと飲んで帰ろ









『こ、来れください』








適当に指さした先


ちっちゃな人がこくりと頷いて何やらゴソゴソやり出した








｢ん。｣







コトンと置かれたお酒


1口飲めば美味しくて








『美味しい…』


｢ふっ、せやろ？｣


『はい！』


｢俺の作る酒はうまいで。俺、すばる言うんやけど、あんたは？｣


『A』


｢A、な。覚えとく｣









お酒の力も借りてすばるさんとうちとけて


またいつか行こうと思って店を出た


まさか次の日にまた行くなんて思ってへんかった

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