3章ー1 リドラの建国記念日 ページ9
寒さも深まり、窓の外にはわずかに雪がちらついている。わたしは温かいティーカップに両手を添えながら、大きく息を吐いた。暖炉で暖められた室内で息が白くなることはなかったが、いよいよ毛布が手放せない季節へと移り変わろうとしていた。
冷たいデスクに腰を下ろして寒さに震えるわたしの傍、ベッドの上でぬくぬくと毛布に包まるのはすっかり私室に馴染んだゾムさん。普段は何とも思わないその光景だが、寒さが身に染みる今日ばかりは恨めしい。けれど生憎非番ではないため、執務を終えるまでデスクを離れることは出来ない。わたしは肩を落として手元の資料に視線をやった。
資料には、近々リドラで開催される予定の船上パーティの概要が事細かに書き綴られている。建国何周年だとかいう記念式典ついでに周辺国と交流することを目的とした、要は外交の場である。プログラムに航海経路、それからずらりと並んだ名簿にはわたしの名前があった。正直あまり気乗りはしない。唸っていると、突然視界に掛かる陰。
「パーティー?」
「わ、びっくりした。もう、勝手に見ちゃ駄目ですよ」
覗き込んでくるゾムさんに、わたしは肩を跳ねさせる。普通に近寄ってくれればいいのに、彼はいつも音を立てずひっそりと背後に佇んで私を驚かせる。むっと睨み付けるが、彼はものともしない様子でデスクの上に置かれた資料をいくつか手に取って眺めていた。駄目だとは言ったが実際見られて困るようなものでもないため、わたしは諦めて同じように資料を眺める。
「もうすぐ建国記念日だから、ちょっとした催し物をやるみたいで。招待状はすでに送ってあるはずだけど、我々国の方も呼ぶ手筈になってるんですよ」
「へえ、知らんかったわ」
「ゾムさんはあんまりこういうの好きじゃないんですか?」
「わいわいすんのは好きやで。でもかたっ苦しいのはなぁ」
「まあそうですよね。ってことはゾムさんは来られないんですね」
「まあ、外交官やろな……なに、来てほしかったん」
「いや、……」
にやりと悪い笑みを浮かべるゾムさんに、反射的に否定しそうになる。けれど、たまには私室以外の場所で会うのも新鮮かもしれないという思いもあり、わたしは言葉を飲み込んだ。
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遊麻(プロフ) - たこぱちょさん» コメントありがとうございます。応援本当に励みになります。スローペースではありますが必ず更新致しますので、引き続きよろしくお願い致します。 (2018年10月30日 10時) (レス) id: 783499c5d1 (このIDを非表示/違反報告)
たこぱちょ(プロフ) - 本当に面白いのでゆっくりで良いので更新頑張ってください! (2018年9月4日 17時) (レス) id: 6746a77822 (このIDを非表示/違反報告)
遊麻(プロフ) - kanonさん» コメントありがとうございます。想像以上にゾムさんが人気で恐縮です、出番までもう少しお待ちください!亀更新ですが頑張ります! (2018年8月3日 1時) (レス) id: bbd918f008 (このIDを非表示/違反報告)
kanon - ゾムさんかっこよすぎてちょっと叫びました(笑)更新待ってますね。頑張ってください! (2018年7月11日 23時) (レス) id: e0a7914592 (このIDを非表示/違反報告)
遊麻(プロフ) - みんさん» 長らく更新していないのにコメントくださってとても嬉しいです。ありがとうございます。亀更新になりますが、お楽しみいただけると幸いです。 (2018年5月24日 17時) (レス) id: 175c4c32e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遊麻 | 作成日時:2017年12月7日 16時