４章ー５ ページ42
「俺や、A」
呼ばれた名前に、はっとする。それからまじまじと相手を眺めたあとに、ようやく込めていた力を抜いた。押し倒した相手は、よく見知った友人だった。「ゾムさん」確認するように名前を呼べば、小さく頷かれる。
「･･････いらっしゃい」
「･･････おう」
謝罪やら、言い訳やら、色々と言いたいことが頭の中に浮かぶが、口から出てきたのは歓迎の挨拶。ゾムさんは押し倒された姿勢のまま、なんとも言えない表情で返事をした。
「来るときは連絡してくれたらいいのに」
「･･･あー、せやな、うん、すまん」
のそりと体を動かす。ナイフを元通りホルダーにしまって、眠るのにはいささか邪魔だろうとホルダーごとベッドの下へと乱雑に放り投げた。その間に、開放されたゾムさんは上半身を起こし、両腕を上げてぐっと伸びをした。
「こっちこそごめんね、気が立ってて」
「いや」
謝罪すると、ゾムさんは曖昧に笑う。「俺も時々仕事のあとはそうなるから」と責める気のない彼の返答に少し安心して、わたしも同じように小さく笑った。
本当か嘘か、わたしには分からない。任務帰りに訪ねてくるゾムさんはたいてい穏やかだ。朝方にひょっこり現れて他愛のないやりとりをして帰っていく彼は、人を傷つけているようにはあまり思えない。もしかすると神経質なときは顔を見せないようにしてくれているのかもしれない。まあ、だからと言って初めて会った時の彼の興奮した様子も忘れたわけではない。その時のことを、彼はいつだったか"楽しかった"と語った。そしてまた、わたしのことも"楽しそうだった"と。自分のことを戦闘狂だと思ったことは無いが、確かに通ずるところはあるのかもしれない。
そんなことを考えていると、ふと鮮やかな緑がこちらをじっと捉えていることに気が付く。首を傾げてみせるが、その持ち主は何も言わない。代わりに伸びてきた手が、不意に肩にかかった髪を掻き分けた。空気を挟んで感じる体温に、わたしは思わず顎を引いて身構える。明らかに動揺しているこちらの様子など構いもせずに、彼は開けた首元に顔を近づけた。
「･･･血のにおい」
すんと鼻を鳴らすと、一言。あまりの至近距離に身じろぐが、あっさりと身を引いた彼は、今度はわたしの左腕へと視線を向ける。
「それ、大丈夫なん」
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遊麻(プロフ) - たこぱちょさん» コメントありがとうございます。応援本当に励みになります。スローペースではありますが必ず更新致しますので、引き続きよろしくお願い致します。 (2018年10月30日 10時) (
レス) id: 783499c5d1 (このIDを非表示/違反報告)
たこぱちょ(プロフ) - 本当に面白いのでゆっくりで良いので更新頑張ってください！ (2018年9月4日 17時) (レス) id: 6746a77822 (このIDを非表示/違反報告)
遊麻(プロフ) - kanonさん» コメントありがとうございます。想像以上にゾムさんが人気で恐縮です、出番までもう少しお待ちください！亀更新ですが頑張ります！ (2018年8月3日 1時) (レス) id: bbd918f008 (このIDを非表示/違反報告)
kanon - ゾムさんかっこよすぎてちょっと叫びました(笑)更新待ってますね。頑張ってください！ (2018年7月11日 23時) (レス) id: e0a7914592 (このIDを非表示/違反報告)
遊麻(プロフ) - みんさん» 長らく更新していないのにコメントくださってとても嬉しいです。ありがとうございます。亀更新になりますが、お楽しみいただけると幸いです。 (2018年5月24日 17時) (レス) id: 175c4c32e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：遊麻 | 作成日時：2017年12月7日 16時
