3章ー5 ページ13
酒に弱いつもりはないし、自分の限界は心得ている。先日、鬱さんと飲んだ際に寝落ちてしまった時の事がふと頭をよぎったが、あれは例外ということで。仕事の場で無茶な飲み方をするつもりは無い。それに、大の男相手でも、力でだって負ける気はしていない。手練であれば別の話だが。
「気を引き締めていくよ」
扉を開くと、耳に飛び込んでくる喧騒。ホールは既に人が集まり始めているらしかった。そのほとんどがリドラの人間ではあったが、予め目を通しておいた書面に載っている招待客の姿もちらほら見受けられる。大抵は外交官が挨拶に行くためわたしとは直接的には無関係だけれど、顔を合わせるかもしれない相手の顔はできるだけ覚えておいた方が都合が良い。
わたしはレクトに目配せをすると、ホールの中心部へと足を進める。道中、他の官吏の挨拶に応えながら、会場をぐるりと見渡した。
「どなたかお探しですか?」
「…ううん、なんでもない。さ、準備しよう」
ゾムさんは、パーティーに来てくれるのだろうかーーそんなことを考えていたのは最初の内だけだった。開始時刻が近付くにつれて、会場を埋め尽くすほどの多くの人で溢れ、わたしを含め城に仕える人間は会場を忙しなく動き回ることとなった。接待に回ったり、プログラムの確認をしたり、ハプニングの対応をしたりと、駆け回っている内にすっかり彼のことは頭から消えていた。護衛として連れて来ていたレクトも、私の元を離れ各々動いていた。
ようやく落ち着きを取り戻したのは、開式して楽団による演奏がはじまり、しばらく経ってからだった。ある程度面識のある相手との挨拶回りも済ませ、比較的余裕が出てきたわたしは、グラスワインを片手に見回りも兼ねて会場を巡回していた。自国の者も含めてほとんどが、思い思いに立食を楽しみ雑談に花を咲かせているのを見て、わたしは安堵の息を吐いた。
そんなとき、こつりと靴を鳴らして近寄ってくる音にわたしはふと顔を上げる。その先に居たのは、写真で何度も見た顔だった。記憶にあるような緑の軍服姿ではないけれど、紺色のスーツに緑色のネクタイ、それからちょこんと頭に乗せられたフェス帽。ふわりと空調の風に揺れるアシンメトリーな髪に切れ長な瞳を、見間違う筈はない。わたしのことを知っているのだろうか?疑問に思いながらも、確かにこちらに向けられた視線にわたしは笑みを浮かべながら会釈をした。
627人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
遊麻(プロフ) - たこぱちょさん» コメントありがとうございます。応援本当に励みになります。スローペースではありますが必ず更新致しますので、引き続きよろしくお願い致します。 (2018年10月30日 10時) (レス) id: 783499c5d1 (このIDを非表示/違反報告)
たこぱちょ(プロフ) - 本当に面白いのでゆっくりで良いので更新頑張ってください! (2018年9月4日 17時) (レス) id: 6746a77822 (このIDを非表示/違反報告)
遊麻(プロフ) - kanonさん» コメントありがとうございます。想像以上にゾムさんが人気で恐縮です、出番までもう少しお待ちください!亀更新ですが頑張ります! (2018年8月3日 1時) (レス) id: bbd918f008 (このIDを非表示/違反報告)
kanon - ゾムさんかっこよすぎてちょっと叫びました(笑)更新待ってますね。頑張ってください! (2018年7月11日 23時) (レス) id: e0a7914592 (このIDを非表示/違反報告)
遊麻(プロフ) - みんさん» 長らく更新していないのにコメントくださってとても嬉しいです。ありがとうございます。亀更新になりますが、お楽しみいただけると幸いです。 (2018年5月24日 17時) (レス) id: 175c4c32e1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:遊麻 | 作成日時:2017年12月7日 16時