第78話 ページ28
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「妙技、綱渡り。」
丸井のラケットから軽くはじき返されたボールがネットの上を移動し、Aのコートに落ちる。その独創的かつ巧妙な技に一瞬時が止まったようにその場が静まり返った。そしてすぐに中学生達からの歓声があふれる。
「でたぁ!丸井さんの綱渡り!」
「丸井くんちょーかっこEー!!」
桃城、芥川の声が聞こえて、Aもハッと我を取り戻す。丸井の妙技のことは知っていたし警戒もしていた……それでもいざ目の前で披露されると反応できない。そしてそれ以上にあまりの巧妙さに見入ってしまったのだ。
丸井はあっけに取られていたAの表情を見て、得意気に笑った。
「どう、天才的?」
「……凄いね。」
Aの表情は純粋に輝いていた。そんな彼女の表情を見て丸井も楽しそうにガムを膨らませる。互いに試合を楽しんでいるその雰囲気は外野にも伝わっていた。
「Aちゃんが僕達以外とあんなに楽しそうにテニスしてるなんてね。」
「強いと認めているという事でしょう。」
「あれ、徳川くんなんだか寂しそうだけど?」
入江の言葉に徳川は顔をしかめて「入江さん……。」と呟く。何を言ってるんだ、とでも言いたげな表情だ。鬼も「すべってるぞ。」と指摘すると、入江は軽く笑った。
「あはは、冗談だよ。ごめんごめん。……でもサーブ&ボレーヤーはAちゃんと相性が悪いからね。」
丸井を見ながらはなった入江の言葉に鬼も徳川も頷く。その間に丸井が1ゲームとり、これで状況は戻った。一見丸井が優勢に見えるが、そうではないと高校生は分かっている。試合の行く末を見守るように、そして楽しむように入江は目を細めた。
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「ゲーム丸井、2ゲームストゥ1!」
綱渡り、鉄柱当て……丸井の妙技に翻弄されAがゲームを落とした。2ゲームを連続でとり調子が出てきた、という感じの丸井だが、Aはさほど焦りを見せていない。
むしろまるでじっと様子を伺っているような、鳴りを潜めているような……異様な空気を感じ、丸井は冷や汗を流しながらガムをふくらませた。
「このまま貰っていくぜぃ!」
丸井がサーブを打つ。数回ラリーしたところで丸井がボールを鉄柱に当てた。鉄柱にボールを当ててイレギュラーな動きをさせるという正確なコントロールを要する荒業だ。
先ほどまでその規格外さに反応できないでいたが、今度は低い位置にあるボールを捉えた。軽く前後開脚をして。
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作者名:赤兎リエ輔 | 作者ホームページ:http://nekomoti
作成日時:2019年1月10日 0時