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『シェイクスピアの名言、
見え透いた煽りだった。まあ機械であるAが意図的にしたものかどうかは知りえないが、浅野学秀が彼女に対して嫉妬とは違うが、ライバル意識を抱いていることは彼のやり取りを見ていれば一目瞭然だった。
『何か問題でもありましたか』
『ふん、別にいい、フランス語もわかるのか?』
『ええ、基本的には、まあ……?』
その基本的に、がほぼ全ての言語をさすのかフランス語の基本のことを言うのか、どちらか分かるのは彼女がAIなのをわかっている人くらいだろう。
素直に感心して問いかけたであろう浅野はその歯切れの悪い答えに特に反応することは無く、彼女の持っている本に視線を移した。
『フロイトの夢判断、アロマセラピーとハーブの辞典、AIは感情を持つのか……さしずめ精神と身体について調べていると言ったところか、テスト前にそんな呑気でいいのか?』
『ずいぶんと分析能力にたけているんですね』
浅野が自分の持っている本から調べているものを分析したことに驚きつつ、ついでと言わんばかりにテストの話題から話をそらす。
『別に、見ればわかるだろう』
『そうですか、まあ私はもう借りる本は決まったので戻らせていただきます』
丁寧に一礼し去ろうとするAの腕を、浅野がつかみ引き留める。
『まだ、聞いてないぞ、E組にいる理由』
『理事長はどうされたんですか?』
『守秘義務だと一蹴されたよ、今更よく言う』
さすがにそれには呆れ笑いで応対せざるおえなかったらしい。テストの結果を見せておいて何を今更言っているのだろうと、Aも目の前の彼に同意する。
『そうですねぇ、では、知りたかったら勝負しませんか?』
にこやかに、唐突に、Aは可愛らしく小首を傾げた。
浅野はAIであるAですら感心するような能力を持っている、自身の機能向上のために必要な研究対象だ。なにより自分と張り合える人物であると確認していた。
彼と勝負したら楽しそうだ。
『勝負事か、嫌いじゃない、お前と正面からぶつかってみたいとちょうど思っていた所だ』
浅野がにやりと笑い本を片手に腕を組むと、戦闘準備と言わんばかりにAも腰に手を当て、挑戦的に目線を動かす。
『ふっ、私もそういう闘争心、嫌いじゃない、です』
威圧感とも言えぬ空気が狭い通路に吹きすさぶ。マゼンタの光が、お互いの彩度と混じりあった。
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作者名:天泣tenkyu | 作成日時:2019年6月14日 22時