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「おっと」
その人が、突然の私の動きに驚いたのか言葉を発したのを背中で聞いた。
…いや、けどその声音は全く驚いていない、泰然たるもので__
「Aちゃん?!」
部屋を出てすぐ、左に向かって走ろうと足を踏み出すと、なんと驚いた顔の伊作さんが目の前にいた。
「い、さくさ…!?」
私は伊作さんを避けようとすぐに横にズレながら、けれど肩だけ避けきれずに伊作さんにぶつけてしまう。
それに気にしていられるわけもなく、私は振り返らずに走った。
そういえば、私が伊作さんと別れて部屋に入ってから遠ざかっていく足音は聞こえなかった。
ということは、伊作さんは今までずっと部屋の外の障子の真横に突っ立っていたのか。何のために。
「え、雑渡さん?!」
後ろからまた伊作さんの声がした。
“ざっとさん”。
この状況で考えられるのは一人しかいない。
(まさか伊作さん、さっきの人と手を組んで…?)
考えている途中でどこから飛んできたのか、あっという間にさっきの人が進行方向に立ちはだかる。
外の明かるさに照らされて見たその人の黒だと思っていた服の色は、黒柿色であった。
行く手を阻まれた私は足を止め、せいぜい3秒程度の全力疾走は呆気なく終わる。
走った距離は大股4歩といったところだろうか。
数歩先のその人は、軽くため息をついた。
「どこに、って聞きながら逃げたら答えられないでしょ」
先程と同じ、落ち着いた声音だ。
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作者名:加糖 雪 | 作成日時:2021年4月6日 16時