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忍術学園という場所のわからない忍びの学舎であろうその名前を聞いた時も、正直辿り着けることに期待はしてなかった。
けれどそんなことはどうでも良くて、辿り着けなかったとしても、途中で力尽きて死んでしまえるだろうからいいやと思ったのだ。
冷静になって考えて、全てが現実的じゃないことは100も承知だ。
だがこの後死んでしまうのだと思えばなんだってできる気がした。
現実が現実に思えなくなっていた。
だから私は歩いて、歩いて歩いて歩いて、そして忍術学園に辿り着いた。
忍術学園に辿り着いたことに関してはほぼ奇跡だ。
私は野垂れ死にせずに“忍術学園の保健委員”とやらの顔を見れるのは幸運だと思った。
…まさか自分が倒れて二度も忍術学園の人に助けられるとは夢にも思っていなかったけれど。
私を手当てしてくれたという奴は、意外にもあっさりと声で分かった。
「だから絶対、絶対絶対、生きてね」。
ぼんやりとした記憶の中に、横たわる私の手を握ったその人の声がある。
私を手当てしてくれた人だろうとわかるその声が、倒れて運ばれた先である医務室で聞こえたのだ。
目を開けて、顔を見て、自分と同じくらいの歳であろうその人__
_善法寺伊作に、私は喚きたくなるくらいどうしようもなく、ただ寂しくて悲しい気持ちを感じた。
彼は、優しすぎた。
中途半端に優しい人間だったのなら、もっと適当な人間だったのなら。
私はきっとその顔面を一発殴りたくなっていただろう。
けど、違ったのだ。
馬鹿みたいに底抜けて優しいのが分かって、「殴れた方がこのぐちゃぐちゃした感情の行き場があってまだ楽だったのに」、とさえ思った。
そこで、手当てしてもらったことに、もう謝罪とか文句とかそういう気持ちはなくなった。
ただ仕方がないと思った。
私は早く忍術学園を出て死のうと思った。
この期に及んで気持ちが揺らいだりしたくなかったからだ。
気の迷いを起こす前に、早く。
一度覚悟を決めてここまでやったのだから、後戻りもできない。
汚して歩いてきた一本道は、簡単に踵を返せない。
それなのに、私はこの学園に留まることを余儀なくされた。
ああきっと、呪いだったんだ。
「だから絶対、絶対絶対、生きてね」
なんて、あの言葉は。
私をこうまでして生かそうとする、
呪いだ。
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加糖雪(プロフ) - Hanakoさん» ありがとうございます!^^ (2021年4月25日 21時) (レス) id: ac64387404 (このIDを非表示/違反報告)
Hanako - 面白い!! (2021年4月17日 18時) (レス) id: 1d8bf8714f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:加糖 雪 | 作成日時:2021年3月31日 9時