五輪 ページ5
「それでね、今日Aちゃんをここに連れて来たのは舞波楼で"遊ぼう"かなと思って。」
美沙子ちゃんの口からさらっとでた言葉に私は思わず硬直してしまった。
美沙子ちゃんは軽く言っているがここ花街で“遊ぶ“というのはつまり、彼らと一夜を過ごす_ということだ。そこらの商店街や市で遊ぶのとは勝手が違う。
仮にも彼女たちは名家のご令嬢ではないのか、そんなご令嬢の彼女たちが遊郭で一夜なんて__当然駄目に決まっている。
「ま、待って美沙子ちゃん!私たちまだ17だよ?こんな所で過ごすのはまずいんじゃ…それに、ご両親も心配されるんじゃない…?」
不安そうに言う私とは対照的に美沙子ちゃんは私の背中をバシバシ叩いて笑う。
「大丈夫大丈夫!私たちここに来るの初めてじゃないし!それに女学校のみんなもよく行ってるよ?」
(初めてじゃないって…それに他の子達も通ってるの…?どうなってるんだこの子達は…)
でも確かに、花魁といえば一晩に高い揚代がかかる。そんな大金を払い、彼らと一夜の夢を見れるのは令嬢やマダムくらいだろうか。
(なんだか腑に落ちない…。)
「Aちゃんだって別に“初めて“って訳じゃないでしょう?」
美沙子ちゃんが冗談ぽく言った爆弾発言に私は更に体を硬直させてしまった。
(え、え、“初めて“が普通なんじゃないの…?
だって男女の交わりなんて経験してないでしょう?普通。
私たち、17だよね?嫁入り前だよね?待って、私がおかしいの…?)
頭の中で葛藤しながら私は美沙子ちゃん達の様子を盗み見ると、彼女たちは見世の格子を挟み、例の花魁達とキャッキャッと楽しそうに話していた。
私ははぁ、と溜息をつくと見世をぐるっと眺める。
その時、丁度私の目の前にいた緑に統一された着物と装飾品に身を包んだ花魁とカチ、と目が合ってしまった。
(まずい…)
私はすぐに逸らそうとしたが、彼の身に纏うものと同じ色、翡翠の瞳に見つめられ、まるで吸い込まれるように彼から目が離せなくなってしまった。
(なに、この感覚…)
暫く目を合わせていたが、不意に花魁が吸っていた煙管を口から離した。
そして格子の隙間から私に向けて、その煙管を差し出したのだ。
私は数秒ぼーっとしていたが、気付いた時にはその煙管を受け取ってしまっていた。
(しまった…!)
煙管を受け取る__
それは彼の誘いに応じるということ。
(これでは今日、ここで過ごさなくてはならなくなる…!)
(とりあえずこの煙管を花魁に返して__)
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藍瑠(プロフ) - 夜さん» ありがとうございます!そう言って頂けて本当に嬉しいです。続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - ウルさん» ありがとうございます!嬉しいです、続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - 匿名希望さん» ありがとうございます!更新頑張ります! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - Haoto-ハオトさん» ありがとうございます!更新不定期ですが、気長にお待ち頂けると幸いです! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - えゆさん» ありがとうございます!続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍瑠 | 作成日時:2020年3月16日 20時