二十九輪 ページ29
ゴーン、ゴーン、と鐘のなる音で目を覚ます。
寝ぼけ眼でうっすらとした視界の中、身体を起こす。
どうやら私はあの後寝てしまったようだ。
(まぁ、昨日疲れてたしな。)
「あ、起きた?おはよ。」
目を擦りながら、声のした方を向くと、隣の布団でにこりと微笑む浦田さんがいた。
寝起きで髪や着物は少々乱れているものの、その美しさは変わらず、寧ろ寝起きの色気も相まって更に美麗だった。
私はそんな姿に数秒悔しいが見惚れてしまって。
ハッとして浦田さんに挨拶を返した。
「おはようございます。その、私寝過ぎてました?」
恐らくついているだろう寝癖を押さえながら、不安でそう聞く。
「ん?いや普通じゃね?他の客に比べたら全然早いし。」
「でも、」と続けようとするも、その先を察した浦田さんに遮られてしまう。
「俺達は客より早く起きないといけないからさ。気にすんな。」
そう言って私の頭にぽん、と手をおいた。
慣れないスキンシップとそれによって縮まった浦田さんとの距離にかっと顔が熱くなり、私は紅潮した顔を見られぬよう俯いた。
すると浦田さんは私の顔を覗き込もうとする。
「昨日はあんなに積極的だったのに?」
そんな浦田さんを押し返しながら、「語弊のある言い方をしないでください!!」と返す。
浦田さんは「ごめんごめん。」と全然反省してないように笑った。
「嬉しかった。ありがとな。」と小さく付け加えて。
「でもどんな大物かと思ったら、俺を振ったのがまさかの生娘だったとはな〜。」
「いつまで生娘引っ張るんですか!!」
照れたかと思えば、またすぐに人を揶揄う。そんな浦田さんに振り回されながら過ごした昨日一晩。
彼が花魁としての美しさや芸だけで無く、その人生に辛い運命を背負っていること。
たった一晩一緒に過ごしただけなのに、何処か彼に共感を抱いている私に失笑する。
洋服に袖を通しながら、そんな物思いにふけっていると「あのさ、」と浦田さんの声に顔を上げる。
浦田さんは珍しく真剣な顔つきをしていて、そんな彼の表情に胸がドキ、と鳴る。
「今日も来てよ。」
「え?」
思ってもみなかった言葉に間抜けな声が出た。
「いや、でも私…」
昨日一日、なんだかんだ言いつつも楽しかった、そう確かに思っている自分がいる。
でも私はこの“遊郭“という場所に良い感情を抱いていないし、悪い思い出もある。
断りを入れようとするも浦田さんに「待ってるから。」と言われてしまい、口を噤んだ。
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藍瑠(プロフ) - 夜さん» ありがとうございます!そう言って頂けて本当に嬉しいです。続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - ウルさん» ありがとうございます!嬉しいです、続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - 匿名希望さん» ありがとうございます!更新頑張ります! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - Haoto-ハオトさん» ありがとうございます!更新不定期ですが、気長にお待ち頂けると幸いです! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - えゆさん» ありがとうございます!続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍瑠 | 作成日時:2020年3月16日 20時