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十九輪 ページ19

(考えただけでもゾッとする…。)

自分の処分に不安を抱いて手に力をぐっと込めた。


(ここはさっきの…)

花魁に連れられたのは私が逃げ出した先程の部屋。

内証か、もしくは折檻部屋に連れていかれると思っていた私はなんだか拍子抜けしてしまった。

(なんでここに…)

花魁は器用にも私を抱き抱えたまま襖を開け、それから座り心地の良い座布団の上に私をおろした。

「ぁ、ありがとうございます…?」
よく分からないが、取り敢えず運んでくれた花魁に感謝を述べる。

しかし浦田花魁は何も声を発せず、後ろ手で襖の戸を閉めた。


すると、花魁が突然その場に崩れ落ちた。

「え、は…」

咄嗟のことにあっけらかんとしていると、花魁は着物の裾を顔にあてしくしくと泣き出した。

「主さんはわっちのことが好きいせんか…?(貴方[お客さん]は私のことが好きじゃありませんか…?)」

咄嗟のことに驚きながらも私の頭は、流石花魁程の高級遊男となれば器量だけでなく声まで美しいのか、と花魁の凛とした声を聴いてそんなとんちんかんなことを考えてしまった。

そんな私を知っているのか否か、花魁は更に声を震わせた。

「わっちの煙管を受け取っておきながら、志麻の部屋へ覗きに行くなど、主さんはむごうありんす。(貴方は冷酷なことをするのですね。)」

大袈裟なくらいに泣く素振りを見せる花魁はどう見ても嘘泣きで、しかしこういう時どうすればいいのか全く知り得ず、また泣かれるのに弱い私は取り敢えず花魁の傍に近寄った。

「え?!覗きなんて…いや、あれは事故というか…」

あれは間違いなく、自らの意思ではなく不慮の事故、タイミングが悪かっただけなのだが、あの場面を見れば誰でも覗きと捉えるだろう、間違いなく自分の落ち度…という事実に私は語尾を濁らせた。

「本当の夫婦(めおと)でも一人の妻と一人の夫であるように、一人のお客さんには一人の旦那。敵娼は一人と決まっておりんす。志麻の方が良いなら始めから煙管を受け取るなど思わせ振りなことをいたしんすな…。(しないでください)」

「いやいやいや!!誰が良いとかそういうのじゃなくてあれはただ道を探すためというか…」
ぶんぶんと頭を振りながら花魁の言葉を否定する。

「繕いの言葉はようざんす。(結構です。)」

そう言って浦田花魁はぷい、と顔を逸らしてしまった。

「……えぇと」

確かに私にとっては何ともない行動だったかも知れないが、彼ら花魁にとっては重大なことなのかもしれない。

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設定タグ:歌い手 , 浦島坂田船 , 花魁   
作品ジャンル:恋愛
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藍瑠(プロフ) - 夜さん» ありがとうございます!そう言って頂けて本当に嬉しいです。続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - ウルさん» ありがとうございます!嬉しいです、続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - 匿名希望さん» ありがとうございます!更新頑張ります! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - Haoto-ハオトさん» ありがとうございます!更新不定期ですが、気長にお待ち頂けると幸いです! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - えゆさん» ありがとうございます!続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:藍瑠 | 作成日時:2020年3月16日 20時

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