十三輪 ページ13
だが自分を買って欲しい、自分の客になって欲しいと思い、煙管を差し出し客を誘ったことは無かった。
そのことは3人は疎か客達も周知の事実であり、「誰が浦田花魁の最初の煙管を受け取れるか。」等と競い合う女性達には苦笑しか出来なかった。
しかしそんな俺が無自覚のうちだが、彼女に煙管を差し出した。
(つまり俺は彼女に買って欲しかったのか…?)
自問自答しながらもう一度彼女に目を向けると煙管の一件により、周りの客達に好奇と敵意の目を向けられている彼女が助けを求めるように視線で訴えてきた。
(可哀想に、)
俺のせいでそうなっているのだが、一つそれだけ思い彼女には激励の念を込めて微笑んでおいた。
彼女が何やら言いたげな表情をしたが、気づいてないふりをして客を迎える準備をする。
暫くした後、もう一度格子の外の彼女に視線をやったが彼女はもう居なかった。
何処へ行ったのか、と思い辺りを探した矢先、番頭が指名だと呼びに来て舗に入ったのか、と納得した。
毎日同じことを繰り返し、ただ年季が明けるのを待つだけの生活。年季が明けると言っても、部屋代や食事代、弟男郎や禿達の着物代などの面倒を見ていれば借金は雪だるま式に増えていき、返しきる目処などつかない。
莫大な借金を前に客の選り好みなど出来ず、応じるまま受け入れるまま。
感情を殺し、演技がかった台詞を吐く自分。
そんな色のない世界に、彼女なら何か与えてくれるのではないか。
なんの確証もないのに、そんな淡い期待を彼女に抱いている自分に驚いた。
逸る気持ちを落ち着かせ、客を迎えに土間へ出ようとするとぴしゃり、と怒鳴り声が聞こえてきた。
その声にざわめく遊男達を落ち着かせ、柱の影から様子を伺うと何やら客と遣手が揉めているようだった。
揉めている令嬢の中には例の彼女も。
もしやと思い、入口の向こうを見ると外には既に大勢の野次がいた。
(これはまずい。)
中原遊郭一大見世を争う遊男屋、舞波楼が喧嘩騒ぎなど良いゴシップにしかなりえない。
舞波楼に客が入ることで苦しい妓楼は星の数ほどある。これを餌に余所に客が流れては堪らない。
それに血の気の多い妓楼は犬猿されるものだ。客足が遠のいてしまう。
ここは遊男頭である俺が__と場を収めるため、土間に出ようとした時、丁度内証から内儀が出てきた。
内儀は一通り話を聞くと、客を刺激しないよう宥め、説得した。
客も納得したようで、舗はまた落ち着きを取り戻し俺はほっと胸を撫で下ろした。
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藍瑠(プロフ) - 夜さん» ありがとうございます!そう言って頂けて本当に嬉しいです。続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - ウルさん» ありがとうございます!嬉しいです、続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - 匿名希望さん» ありがとうございます!更新頑張ります! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - Haoto-ハオトさん» ありがとうございます!更新不定期ですが、気長にお待ち頂けると幸いです! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - えゆさん» ありがとうございます!続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍瑠 | 作成日時:2020年3月16日 20時